「東京ラブストーリー」、「最高の離婚」、「カルテット」など多くの話題作を手がける脚本家の坂元裕二が、映画では初となるオリジナル脚本を書き下ろした作品『花束みたいな恋をした』。この作品が生まれるきっかけでもあり、有村架純と共に主演を務める菅田将暉に、作品でも描かれている、“人に惹かれる瞬間”や”好きを仕事にすること”について話を聞いてみた。
20代特有の瞬発的な気持ちが強い時期のラブストーリーをやりたかった

──まずは作品を観られた感想をお聞かせください。
自分が出ている映画なのでこういうこと言うのも照れくさいですが、素晴らしかったです。
僕と有村(架純)さんは特別な事はしていなくて、書かれている通りに素直にやっただけなので、坂元さんの脚本と土井監督の着色の力だなと思いますね。
もちろん演じてはいるんですけど、こういう人物にしようという擦り合わせは一切ありませんでした。
大きな事件があるわけでもないし、2人のどちらかが悪いとかでもないし、ハッピーエンドではないけど、ハッピーエンドにも見えるような不思議な作品ですね。
余計なものがそぎ落とされていて、とても好きです。
──今作は、菅田さんから坂元さんにラブストーリーを書いてほしいと依頼したことから生まれたとお聞きしました。
ちょうどラブストーリーをやりたいなと思っていたんです。
今まで、ハードで強烈な恋愛作品はやってきたんですけど、甘酸っぱい普遍的なラブストーリーはほとんどやっていないので、20代特有の瞬発的な気持ちが強い時期のラブストーリーをやりたくて。
坂元裕二さんなら絶対に、その時代時代のカルチャーに精通した脚本を書いてくださるだろうなということを思っていたところ、とある授賞式で偶然お会いしたのでお願いしました。
──実際、今回の作品も実在する20代の男女の会話をのぞいているかのような、リアリズム度の高い脚本でしたね。特別なことが起こるわけではないけれど、共通の趣味を持つ二人が出会って惹かれ合っていく様子にすごくドキドキさせられました。
ひと言でラブストーリーといっても様々なものがある中で、この作品は恋愛自体にスポットが当たっていて、2人の人間の出会いから愛を育んでいく様の美しさとか、滑稽さみたいなところが描かれているのが面白いですよね。
恋愛ならではの微妙なやりとりや探り合いは、みんな心当たりがあるものですから。
今回の作品で出てくるたくさんの固有名詞は、絹ちゃんと麦くんの共通言語であって、それぞれ皆さんがこの作品を通して思い出したかつての恋人や、今現在の恋人との間にも、その2人にしかない共通言語って絶対あると思うんです。
その恥ずかしさとか、こそばゆい感覚を感じていただけたらいいですね。
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カルチャーを掘っていけば行くほど、人は孤独を感じる

──菅田さんご自身は、恋愛や友人関係において、共通の趣味があることに惹かれるタイプですか?
同じものが好きって言う事は、同じものを見てきているって言うことだから、めちゃめちゃ大事だと思いますね。
特に僕らの世代ってYouTubeのような多様なメディアが増えてみんなが同じものを見ているっていう環境じゃないから。
数ある選択肢の中で「そこに反応してるんだ」とか、「そこまで掘ってるんだ」っていうことを知ると、大体その人がどういう人かって分かるんですよね。
「それが好きってことはこれも好きだよね?」って言う感じで。
カルチャーを掘っていけば行くほど、人は孤独を感じると思うんです。
要は1人の時間が長いということなので。
1人で掘っていたものを、自分と同じように掘っている人がいたんだって分かるとやっぱり嬉しいですし、その答え合わせをするように惹かれる2人っていうのはいいですよね。
友達の場合もそうですね。大体仲良くなる人ダウンタウン好きですもん。
あとはラーメンズやバナナマンのコントDVDを持っていたり。
何か語りたいほどに好きなものがある人っていうのが僕はそもそも好きですね。
──作中では、趣味が合うということで繋がっていた二人が、それだけではうまくいかなくなっていく様子の描かれ方がリアルでしたね。
この作品の中の絹ちゃんと麦くんは、そこ(趣味)でつながりすぎていたっていうのが切ないところでもありますよね。
友達と恋人は違うから、一緒に生活しようとか結婚ってなると、趣味が合うだけじゃ解決できない問題に直面し始める。
そこで初めて「あれ?意外と内面の話そんなにしてないよね?」っていうところに気づくというか。
同じもの好きだからといってうまくいくとは限らない、人間のややこしい部分が描かれているなと思います。
──麦くんは一度は夢だったイラストレーターを目指すも、それを諦めて就職することを選んだわけですが、菅田さんご自身は好きなことを仕事にしたという感覚ですか?
僕の場合、この世界に入ったのが16歳でまだその意思すらもなかったので、仮面ライダーに出演していた頃はこの仕事を一生やるとも考えていなかったです。
今になって考えてもすごく恵まれてるなって思います。
この映画の中では、才能って何かとか芸術で生きていくことの難しさみたいなものを描いていますが、才能があれば生活できるのかっていうとそういうことでもないし、才能がなくても生活できる人はいるし。
総合的なセンスって言うか、生きていく上でのサバイバル能力っていうのも必要ですからね。
僕が偉そうに言える事ではないですけど、好きなことを仕事にできているように見える人でも100%好きで楽しくやれている人は本当に一握りだとは思います。
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役作りの中で役の疲れを癒せるのが一番理想的

──ここ1年ほど、これまでの働き方や生活スタイルを変えざるを得ない状況下にありますが、仕事に対する向き合い方に変化はありましたか?
今までの理想とか、ペースみたいなものは一回忘れて8割減、7割減でいいから努めようって言うマインドです。
以前と同じように向き合おうとすると絶対滅入っちゃうから、この状況を受け入れつつ進むしかないと思っていますし、今しかできないことを考えるきっかけにはなりました。
──そんな中で、菅田さんが今熱中しているものって何ですか?
今こんな髪型なので昔の鶴瓶さんの写真とかファッションを頻繁に見ています。
──髪型に合わせてファッションを決められることが多いって以前おっしゃられてましたね。
多いですね。仕事柄、役によって髪型が決まっちゃうので。だからこそファッションが好きになったのかもしれません。
だいたい今はオーバーオールとかつなぎばっかり着ています。
あと、最近は役作りのために2000年くらい前の人間について書かれたエッセーのようなものを読んでいます。「カリギュラ」をやった時にも思ったんですけど2000年経とうが、3000年経とうが人間の悩みなんてほとんど変わらなくて、そこに救われたというか、ほっとした感じはありますね。
──役作りのための学びが、私生活に活きてくる事もあるんですね。
そうですね。役に生き過ぎても、役とプライベートを完全に切り離してもどちらもしんどいので、役作りの中で役の疲れを癒せたら一番理想的ですね。
最近はちょっと疲れたなとか頭がパンパンだなと感じる時は、その本を読んで落ち着かせています。

『花束みたいな恋をした』東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った大学生の山音麦(やまねむぎ)(菅田将暉)と八谷絹(はちやきぬ)(有村架純)。 好きな音楽や映画が嘘みたいに一緒で、あっという間に恋に落ちた麦と絹 は、大学を卒業してフリーターをしながら同棲を始める。 拾った猫に二人で名前をつけて、渋谷パルコが閉店 してもスマスマが最終回を迎えても、日々の現状維持を目標に二人は就職活動を続けるが──。
2021年1月29日(金)より、全国公開 配給:東京テアトル、リトルモア
脚本:坂元裕二 監督:土井裕泰
出演:菅田将暉 有村架純/オダギリジョー/清原果耶 細田佳央太 他
菅田将暉
1993年2月21日生まれ。大阪府出身。『仮面ライダーW』(テレビ朝日)にてデビュー。2017年に公開された映画『あゝ、荒野』では第41回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞のほか、数多くの賞を受賞。公開待機作に映画『キネマの神様』、『キャラクター』、『CUBE』(’21年)がある。
Photos:Teruo Horikoshi(TRON) Hair&Meke-up:Eito Furukubo Styling:Keita Izuka