神保町よしもと漫才劇場を拠点に活動している芸人「9番街レトロ」の京極風斗(きょうごく・かざと)さんは、極端なほどに“0か100か”で生きている。芸人を志し、歩み続け、26歳になった今。10代の自分には理解できなかった大切なことに気づいた。自信に満ち溢れた日も、どうしても頑張れない日も、これならできるかも? 自分にとっての成功を“いつか”手に入れるために“今日”やるべきことが見えてくるはず……!
9番街レトロ・京極風斗
連載【0か100かで生きてゆく #15】
ー千里の道も一歩からー

Illustration: Kazato Kyogoku
10代のときには気づけなかったこと
僕は吉本で芸人をしています。
10年目になった段階で、芸人としての収入だけで生活できていなければ辞めようと決めて吉本に入りました。
18歳でNSCという吉本の養成所に入所して、デビューは19歳、10年目は28歳。
ギリギリではありますが、20代であればまだ新たに何かを始めるのも難しくないだろうという京極少年の素晴らしい判断です。
この4月で芸歴が8年目になります。
なんとか辞めずに済みそうですが、正直もっと舐めてかかっていました。
NSC在学中、つまり0年目の段階で賞レースで結果を残し、華々しいスタートを切ってやろうと本気で意気込んでいました。自分のことを天才だと思っていたので。
今思うと馬鹿な考えですが、当然と言えば当然な気もします。
だって10代の男の子にコツコツやることの大切さを教えるのなんて不可能じゃないですか?
なんとなく分かったふりはしますが、100%完全に理解させるのは無理だと思います。
もし僕が過去に戻って自分と話せるとしても、完全に理解させられる自信はありません。
『千里の道も一歩から』という諺がありますね。
僕が芸人の道を何里歩けたかは分かりませんが、8年間歩いてやっと、一歩一歩の大切さを実感しています。
やっぱり、こればっかりは身をもってしか学べないんですよね。
それでも、なんとか伝えられればいいなと思って書いています。
もちろん、初めからコツコツの大切さをわかっている賢い人もいますので、あくまで僕と同じ感覚の若者に向けてですが。
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“コツコツ”のやり方
例えば、「ギターをマスターしたい」と思った時。
それはきっと何かを見て、誰かに憧れてですよね。
実際に触ってみるものの、当然その人みたいには弾けません。
そんな少年に、プロのギタリストが「一歩一歩頑張ればいつか、僕みたいに弾けるようになるよ」と言ったとして、本気で響くでしょうか。
少なくとも僕みたいな奴には響きません。
「才能のある奴が凡人を憐れんで適当な言葉で慰めやがって」と思います。
思いますよね?
でもその人はきっと本心で言ったんです。
それが響かない理由は簡単です。
「そんなことは分かっているから」です。
「コツコツ貯金すれば、いつか大金になるよ」と言われているのと同じだからです。
聞きたいのは、「いくらを、どれぐらいの間隔で、何年貯金したのか。それがどれだけ大変だったのか。近道はないのか。自分にそれができるのか」であって、「お金は貯まる」という事実だけ伝えられても困るんです。そこは知ってるから。
それに、答えようにも、人によって違うものなので明言できません。
たまに具体的なことを教えてくれる大人もいますが、これはこれで問題です。
多分なんですが、人にコツコツ頑張ることの大切さを伝える頃には、コツコツがどんなものだったかを忘れているんですよね。地味な部分は特に。
だから記憶の中の印象的な努力を拾って、「こんなことやあんなことを毎日コツコツやってきたんだ」と伝えるしかありません。
受け手は「それ」を「毎日」やらなければいけないと思います。
初めは頑張りますが、どうしてもできない日が訪れます。
すると、「僕は才能も無ければ、努力もできない人間なんだ」と落ち込み、やがて諦めます。
結局、努力も才能なんだと。
曲がりなりにも8年間芸人としてコツコツやってきた僕からのアドバイスなんですが、「一歩一歩」の一歩って、実は本当に本当に小さなことで良いんですよね。
「一歩一歩頑張ることが大事」と聞くと、「その一歩は、実りのある一歩じゃないといけない」と思ってしまいます。
ギターで言うと、毎日毎日、あるフレーズを弾き切らないと「一歩」にならなそうですよね。
そんなことはないんです。
チューニングしただけの日も一歩。
YouTubeで演奏動画を観ただけの日も一歩。
なんなら、立て掛けてあるギターを5秒見つめただけの日も一歩。
要は「情熱を切らさない為」の動きは全て一歩なんです。
「やりたい」という気持ちがある間は、その道を一歩一歩進んでいるのです。
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僕は今年、R-1グランプリの準決勝に進みました。
3199人の中の、ベスト31です。
今年が3回目の出場で、前2回は芸歴1年目と2年目の時、どちらも1回戦で敗退しています。
なかなかの飛躍ですが、1回戦で負けたあの日から何かを意識して頑張った訳ではありません。
スケジュールにあるライブにとりあえず出てただけですし、寝てただけの日も、酒を飲んでただけの日も、数えきれない程ありました。
しかし思い返せば、どんな日も10秒ぐらいはお笑いのことを考えていたと思います。
きっと「一歩」ってそんなもんでいいんです。
こんなに些細なことでも、8年積み重ねれば実ります。
好きな気持ちさえ切らさなければ、自分でも気付かないうちに、千里の道を歩んでいるものなんです。
結局僕は、過ぎてから振り返らないと、コツコツ頑張る大切さを実感できませんでした。
だから、これから頑張る人にそれを伝えるのはやっぱり難しい。
それでも事実だから、こう言うほかないのです。
成功したければ、コツコツ頑張ってください。

photo by: Ryo (Kotora)
連載『9番街レトロ・京極風斗の0か100かで生きてゆく』は第2・4水曜日に更新!
1995年8月9日生まれ。大阪府出身。吉本興業所属のお笑いコンビ。2019年4月1日に9番街レトロを結成。神保町よしもと漫才劇場を拠点に活動中。
コンビのYouTubeチャンネルは毎日更新!
個人チャンネル「京極風斗の道楽ちゃんねる。」ではアートとインテリアを軸に、好きなことを週2(月・木曜)で配信。絵が得意で、自らデザインしたオリジナルグッズをSUZURIで販売している。
Twitter @9th_kyogoku
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Photo: Ryo (Kotora) Text & Illustration: Kazato Kyogoku