神保町よしもと漫才劇場を拠点に活動している芸人「9番街レトロ」の京極風斗(きょうごく・かざと)さんは、極端なほどに“0か100か”で生きている。そんな京極さんは、大好きな桜の成長を見守るためなら毎日30分歩くことだって厭わない。蕾から開花までの写真とともに、桜のおかげでなんとか乗り切れた恐怖体験をお届けします。
9番街レトロ・京極風斗
連載【0か100かで生きてゆく #17】
ーおじさんに見る春ー

Illustration: Kazato Kyogoku
桜が咲くまで…
桜の季節です。嬉しいですね。僕は桜が好きなんです。
桜と言うとソメイヨシノですが、このソメイヨシノという桜は人が作ったものなんですって。
初めは単一の樹から始まって、それのクローンが日本中にあるみたいです。
だから、あれだけの花がほぼ同じタイミングで咲くんですね。
なんか、狂気とも浪漫とも取れる話ですよね。
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上野公園のある場所は桜の名所として、江戸時代より愛されています。
僕の家から上野公園まで徒歩30分ぐらいなのですが、時間があり、天気が良ければ、必ずそこまで散歩します。
今年は、蕾の頃から開花まで見守りました。
3月15日

3月16日

3月19日

3月23日

3月24日

3月28日

咲いてから見るのもいいのですが、咲くまでを観察すると、喜びもひとしおですからね。
桜を愛でた後は、桜色の優しい心でゆっくり歩いて帰ります。
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桜色の心
前方からスポーツ用のサングラスをかけたおじさんが歩いて来ました。その日は随分暖かかったのにピンクのダウンジャケットを着ています。
ぶつからないように横に避けると、そのおじさんも同じ方向に動きました。
反対に移動しても合わせてきます。
そのまま、早歩きでこちらに向かって来たおじさんは、肘を突き出し、僕のみぞおちをドンと殴りました。
僕に何の恨みが大賞2022。
僕の心に咲いた桜は散り、どんどん黒ずんでゆきます。
振り返ると、サングラス越しにこちらを睨むおじさん。
心当たりが無さすぎる。ムカつくより怖いが勝つ。
ピンクのダウンジャケット? ソメイヨシノの妖精か? 創られし者の叛逆?
などと考えていると、そのおじさんは何処かへ消えてゆきました。
さっき見た桜を思い出し、なんとか心に桜を取り戻します。
気を取り直し、牛丼屋へ入りました。
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牛丼を食べていると、隣に座っているおじさんが何やらボソボソと僕に話しかけています。
しかし僕には直近のおじさんトラウマがあるので、暫く無視していました。
それでも、あまりにもこちらに体を向けて喋っているので、よく聞いてみると「手が綺麗ですね」と言っていました。
良いおじさんでした。桜色の心が紅色に。
「ピアノやってないの?」と聞かれ、「やってません」と答えると、「残念…」と言われました。
そういえば曲は知っていますが、顔を見たことがない。あのおじさんは久石譲さんだったかもしれないですね。
「ありがとう」とだけ伝え、お店を出てまた家に向かって歩き出しました。
もうすぐで家に着く頃、ポツポツと雨が降ってきました。心はレイニーブルー。
傘を持っていませんが、帰ってすぐにシャワーを浴びれば済む話です。気にせず歩き続けました。
蕎麦屋さんの前を通る時、丁度そのお店の閉店作業を終えたおじさんが出てきて、僕を見るなり、「傘ないの?」と、お店にある傘を持たせてくれました。
なんて温かい。
そのおじさんが作る蕎麦は美味しいに決まっています。明日の昼はここで食べようと決めました。
それにしても不思議なほど、おじさんに縁がある。春はおじさんの季節かもしれませんね。
一様に咲くソメイヨシノと、十人十色のおじさんに春を感じる。そんな素敵な一日でした。

photo by: Ryo (Kotora)
連載『9番街レトロ・京極風斗の0か100かで生きてゆく』は第2・4水曜日に更新!
1995年8月9日生まれ。大阪府出身。吉本興業所属のお笑いコンビ。2019年4月1日に9番街レトロを結成。神保町よしもと漫才劇場を拠点に活動中。
コンビのYouTubeチャンネルは毎日更新!
個人チャンネル「京極風斗の道楽ちゃんねる。」ではアートとインテリアを軸に、好きなことを週2(月・木曜)配信。
そのほか、絵が得意で自らデザインしたオリジナルグッズをSUZURIで販売している。
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Photo: Ryo (Kotora) Text & Illustration: Kazato Kyogoku