神保町よしもと漫才劇場を拠点に活動している芸人「9番街レトロ」の京極風斗(きょうごく・かざと)さんは、極端なほどに“0か100か”で生きている。そして生まれてから今まで、京極さんはずっと“運の良い人生”を歩んでいる。でも、それは“気付けている”か“忘れている”かの違いなのかも!? 今の環境に満足できていない人は、ぜひ読んでみて!
9番街レトロ・京極風斗
連載【0か100かで生きてゆく #18】
ー「恵まれている」という自覚。ー

Illustration: Kazato Kyogoku
「強運」の持ち主とは
最近ラグを新調しました。
みなさん、「ラグ」と「カーペット」の違いはご存知ですか?
単純に大きさの違いだけみたいです。
「クジラ」と「イルカ」の違いに通ずるものがありますね。
後はそちらで調べて頂いて。
僕が買ったのは「カーペット」にあたるのですが、「ラグ」の方がお洒落なので「ラグ」と言わせて頂きました。
ネットで購入しまして、正直サイズなり素材なりで心配していたのですが、これがドンピシャで部屋にハマりまして、今とてもテンションが上がっています。
僕は割と、こういう「賭け」に近い買い物を成功させるパワーを持っています。
思い返せば、生まれてから今の今まで、ずっと運が良い人生を歩んできました。
まず超健康体で生まれました。
成人までにした一番大きな病気が「スーパー便秘」です。それぐらい健康に産んで頂きました。
他にも、親の愛が大きかったこと、芸人として心強い人間とコンビを組めたこと、何よりViVi様に見つけて頂いたこと。
ViVi様に。
見つけて頂いたこと。
僕の才能やセンスも、もちろん、それはそれは、自分でも恐ろしい程にズバ抜けていますが、やはり持って生まれた「運」が強いなと感じる日々でございます。
このように書くと「それに比べて私は運が悪いな」と感じる方もいらっしゃると思います。
慰めではなく、本当にそんなことはありません。
ここまで読めたあなたは「強運」の持ち主です。
Page 2
あなたは恐らく日本に住んでいますよね。仮に路上で寝ても、命どころか、持ち物だって高確率で安全なこの日本に住んでいるんですよね。
インターネットを閲覧できる何かしらの媒体を持っていて、この文章を難なく読み、内容を理解できていますよね。
そして、それが当たり前ですよね。
忘れがちですが、それが当たり前な環境にいるって、めちゃくちゃラッキーなことなんです。
不満も愚痴も幸せの上にある
先月SNSを再開したのですが、相も変わらず、世に対する不満や愚痴を散見します。
その発信者は
「自分の意見を文字に表せられるレベルの教育を受けられている」
「それが許される場を与えられている」
「それが勤勉な他人の努力によって成り立っている」
ことに気付けているのでしょうか。
識字率が50%を下回る国がまだまだある中で、普通に生きているだけで当然のように文字の読み書きが身につくシステムが出来上がっているこの日本で生まれたことが、どれだけありがたいことかを理解しているのでしょうか。
きっと忘れていますよね。
恩恵を無視して文句だけを叫ぶアカウントを見ると、悲しいような、勿体無いような気持ちになります。
僕は職業柄、顔も名前も分からない方に、SNSで人格を否定されることはよくあります。
別にその人が幸せならそれでいいんです。
僕を糾弾することでその人のストレスが緩和されるなら僕は構いません。
人前に立つ以上、僕は喜怒哀楽の全てを受け止めるつもりです。それは人を笑顔にするのと同じぐらい大事な役割だとすら思っています。
ただ、それでその人の何かが変わるとは、僕は思えないんですよね。
Page 3
余裕が無いから他人を攻撃したくなる。でも攻撃したからって余裕が生まれる訳でもない。
強い言葉には反動があります。「これを言ったら嫌がるだろうな」と想像できるということは、自分も言われたくない言葉だということです。
他人に向けているとはいえ、少なからず自分にも刺さっているものです。自分の吐いた言葉で傷付くことになってしまいます。
その瞬間がスッキリすればいいだけなら、それでもいいんですが、誰が何をしようと気にならないぐらい、自分の人生に熱中できるようにならないと、根本的な解決にはならないんですよね。
そりゃあ生きていれば不満もあるでしょう。愚痴も言いたくなるでしょう。ただ、それを言葉にしてしまうことがいかにマイナスかを、それを行動で変えようとすることがいかにプラスかをしっかり考えてから動いてほしいなと思います。
そして、辛いこと苦しいことをぐちぐちぬかす余裕のある環境が、いかに幸せかを感じて頂きたいです。
綺麗事かもしれませんが、「生きているだけで幸せ」という考え方は一つの真理だと思います。
僕をどれだけ叩いても構いません。僕をどれだけ馬鹿にしても構いません。僕が認めます。あなたの自由です。
ただ、そんな人生でもいいので生きてください。
どんな人間も、命だけは自分から捨てないでもらいたい。それだけは意思で選んではいけない。まだまだ生きられた身体を自ら殺して、生きたくても生きられなかった人の心を踏み躙ってはいけない。
ただ生きていればいいんです。
誰も「何かを成せ」なんて言ってません。
「生きる」だけです。
カスみたいな人生でも、ゴミみたいな人生でも、たとえ世界中があなたの死を望んでいても、見苦しく生き続けてください。
卵子に向かって本気で泳いだくせに、今更いらなかった命にしないでください。
死ぬタイミングだけは、自分で選ばないでください。
死ぬということは可能性を0にするということです。
それでも0にしたい人が死ぬんでしょうが、「0にしたい」という意識は、0じゃないから存在するものだということを忘れないでください。
あなたは恵まれています。
恵まれている自覚を持ってください。
死にたくなったら知見を広げろ。
結論を急ぐな。
僕もあなたも、まだ世界の1%も知らない。
生きてさえいれば、カーペットとラグの違いを知ることができます。

photo by: Ryo (Kotora)
連載『9番街レトロ・京極風斗の0か100かで生きてゆく』は第2・4水曜日に更新!
1995年8月9日生まれ。大阪府出身。吉本興業所属のお笑いコンビ。2019年4月1日に9番街レトロを結成。神保町よしもと漫才劇場を拠点に活動中。
コンビのYouTubeチャンネルは毎日更新!
個人チャンネル「京極風斗の道楽ちゃんねる。」ではアートとインテリアを軸に、好きなことを週2(月・木曜)配信。
そのほか、絵が得意で自らデザインしたオリジナルグッズをSUZURIで販売している。
Twitter @9th_kyogoku
Instagram @9th.kyogoku
\ 前回の記事はこちら /
Photo: Ryo (Kotora) Text & Illustration: Kazato Kyogoku