神保町よしもと漫才劇場を拠点に活動している芸人「9番街レトロ」の京極風斗(きょうごく・かざと)さんは、極端なほどに“0か100か”で生きている。そんな京極さんは、「働きたくないから」という理由で、お笑いの知識ほぼゼロの状態で芸人の道へと足を踏み入れた。自他ともに認めるほどに、“鋭利にトガっていた”その頃を振り返って、今思うこととは?
9番街レトロ・京極風斗
連載【0か100かで生きてゆく #20】
ー 最後に残ったトガり ー

Illustration: Kazato Kyogoku
平等にドライであること
先日TwitterでViViの公式アカウントにフォローしていただきました。ありがとうございます。
こうやって書いておくと、仮に誤フォローでも、もう取り消せないですからね。
僕の勝ちです。
もちろんViViにフォローしていただいたり、例えば有名人がテレビで名前を出してくれたりみたいなことがあるととても嬉しいのですが、あまり大きい声で喜ぶべきでもないのかなと思います。
公式ではないアカウントにフォローされても、「フォロワーが1増えた」という事実は同じですから、その時も同じ熱量で喜べる人間が一番素敵です。
でも僕にはそんなこと出来ません。
この記事を書いている時点でTwitterのフォロワーが6500人ぐらいいるのですが、6500回喜んだかと言われると絶対にそんなことはないですからね。
だからせめて、平等にドライであろうとしています。
僕が誰のこともフォローしていないのもそういうことです。凄いアカウントだけフォローを返している感じが露骨に出たら嫌じゃないですか。
たとえViViであっても、皆さんと同じ1アカウントですので、間違えてもスクショを撮って「フォローされました!」みたいなことはしないようにしています。
する奴のほうが可愛いんですけどね。
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天国に居続けるための方法
「トガる」という概念があります。
ほぼ芸人用語なんですが、かなり端的に言うと「イタい」と同義です。もしかしたら「イタい」も芸人用語かもしれませんね。
要は「自分のお笑いへの考え方が一番正しい」みたいな、協調を無視し、とにかく自分の感覚だけを正義だと盲信している様が「トガる」に当たります。
そういうスタンスで生きているだけなら誰も何も言わないというか、芸人を志している時点でこの感性自体は殆どの人が持っているものなんですが、これを言動に表してしまうと「トガっている」というレッテルを貼られるわけです。
僕はトガっていました。
それはそれは鋭利にトガっていました。
あまり自他共に認めないですからね。
それを認められる程にトガっていました。
18歳でNSCというお笑いの養成所に入所し、10代特有の根拠無き自信を振りかざし、沢山の人間に不快な思いをさせました。
少し言い訳をさせていただきます。
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僕は「お笑いが好きで好きでしょうがない」というタイプの芸人ではありません。なんなら学校の同級生よりも観てきたバラエティは少ないです。
正直、芸人になった動機は「働きたくないから」です。
お笑いに関する知識はほぼゼロで、他人を笑わせる経験が人より少し多かったという自尊心だけ引っ提げ、NSCに入所しました。
いざ入ってみると、そんな奴が全国から数百と集まっているわけです。
天国みたいな場所でした。関わる人間が全員面白い。
しかし足場は不安定です。ちょっと踏み外すと簡単に奈落の底まで堕ちられる場所でした。
そこで、僕なりに考えた地盤を固める方法が「トガる」でした。
「俺は天国にいるべき人間だ」と誇示することで曲がりなりにも天国に居続けられる気がしたわけです。
その大威張りが少なくとも在学中は功を奏してしまいました。
同期を勝手にランク分けしたり、求められていないダメ出しをしたり。狼藉の限りを尽くしました。
幸か不幸か、僕の同期には精神的に成熟している人間が多く、適当にあしらわれ、過ちに気付かされることなく卒業を迎えました。
僕がまだマシな人間になったのはここ最近の話です。
先輩方からの注意や、相方との出会いや、単純に年齢による落ち着きや、いろんな要因によって、こうやって自分を省みることが出来る程度にはトガりも取れたのかなと思います。
そんな今だからこそ、より強く思うのですが、「人に媚びない」というトガりだけは最後まで取れないのかもしれません。
「仕事あげるよ」みたいなスタンスを取られると、いまだに「その感じやったら別にええわ」という心になってしまいます。
コンビでの話なら「お願いしますぅ」と言いますが、個人に来た話なら、YESでもNOでもない反応で流してしまいます。
初めから下手に出ると後々面倒臭いことになる気もしますしね。
だから、ちょっと名前を出されたぐらいで、Twitterをフォローされたぐらいで、大きく喜ぶべきじゃないなと思うわけです。
まぁViViにフォローされたことに関しては友達にいっぱい自慢したんですけどね。
なんたって ViViは最高の雑誌ですからね。
本当いつもありがとうございますぅ。

photo by: Ryo (Kotora)
連載『9番街レトロ・京極風斗の0か100かで生きてゆく』は第2・4水曜日に更新!
1995年8月9日生まれ。大阪府出身。吉本興業所属のお笑いコンビ。2019年4月1日に9番街レトロを結成。神保町よしもと漫才劇場を拠点に活動中。
コンビのYouTubeチャンネルは毎日更新!
個人チャンネル「京極風斗の道楽ちゃんねる。」ではアートとインテリアを軸に、好きなことを週2(月・木曜)配信。
そのほか、絵が得意で自らデザインしたオリジナルグッズをSUZURIで販売している。
Twitter @9th_kyogoku
Instagram @9th.kyogoku
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Photo: Ryo (Kotora) Text & Illustration: Kazato Kyogoku