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「あなたを呪縛する言葉や考えは聞き流していい」女性が”No is No!”と言えることの必要性【ブレイディみかこ vol.1】

2022.12.07

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「日常で、ふとしたときに女性として生きづらさを感じることがある」……ViVi読者から寄せられた声を、小説『両手にトカレフ』(ポプラ社)の作者・ブレイディみかこさんにぶつけてみました。現在ブレイディさんが暮らしているイギリスと日本との違いについても教えていただきました。自ら道を開き、いろんな世界を自分の目で見て体験してきたブレイディさんのお話には、自分らしく、そして強くハッピーに生き抜くヒントがたくさん。ViVi世代はもちろん、現代を生き抜く全世代の女性たちの背中を押してくれるはず!

“●●だからガマンしなくちゃ”
という考えが、無意識に人を苦しめている

――『両手にトカレフ』では貧困層で生まれ育ち、自分ではどうしようもない環境でもがきながら生きるミアの姿が描かれています。主人公を女のコにしたのには、理由があったのでしょうか?

いくつか理由はあるのですが、ひとつはシンプルに『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』では男のコのお話を描いたので、次は女のコの話にしたいという思いがありました。また、“ぼくイエ”を読んだうちの息子から言われた、「これはハッピーボーイの話だね」という言葉がずっと心に引っかかっていたんです。息子はミアのように食べられない状況にはなく、放課後もバンド活動や演劇といった好きなことができる。けれど、現実にはクラブ活動もできず、学校をエンジョイできていない子どもたちもいます。そういった子の姿を反映させながら、キャラクターを作っていくと、どうしたって親や兄弟の面倒を見るヤングケアラー(※本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子どもの存在にぶつからざるを得ませんでした。

以前、保育士の仕事をしていたんですけど、私の知る限り、貧困層の家庭でケアを一身に引き受けているのは女のコが多い。昔から家庭のケアを女性が請け負ってきたのも関係しているんでしょうけど、女のコのほうがより厳しい環境に置かれているのは一目瞭然。そういった背景もあって、女のコの話を描きたい、応援したいという気持ちが沸き上がってきました。

――ジェンダーフリーに向かう時代に逆行するようですが、今も女のコだからガマンしなくちゃという考えが、無意識に女のコたちを苦しめている気がします。ただ、イギリスではそういった呪縛があまりないイメージだったので、ミアのような存在は意外でした。

たしかに、イギリスの女のコは呪縛が少ないというのは正しくて、すごく強いコも多いです(笑)。中学の最後に受ける全国一斉試験があるのですが、ここ2030年は女のコのほうが点数が高く、学力的にも優秀。うちの息子の学校の生徒会も、約7割が女のコでした。世の中的にも、男性が女性を食べさせるという家長制的な考えはずっと昔に崩れていて、両親ともに収入があることも、自分の食い扶持は自分で稼ぐという考えも当たり前。

ただ、それはミドル階級の人たちの話です。貧困層で育ったミアのようなコは、経済的問題や家族のケアで学校に行けず、卒業後はすごく賃金の安い仕事に就くしかない。ミアの母も男の人から男の人へ点々としながら生きていますけど、自活できないとどうしても誰かと一緒に住む、お嫁に行くという選択肢に行き着いてしまいがちなんですよね。

あなたを呪縛する言葉や考えは、
聞き流してもいい。

――必ずしも貧困の問題ではないにしろ、日本にも男性に養ってもらうという考えが残っていると感じることがあります。もちろん、そうではない人もたくさんいますが、呪縛から解き放たれるためには、どういう意識をもつことが大切でしょうか?

男性が働き家族の面倒を見て、女性は家のことをやるという考えを持った親が、無意識に子どもにかける言葉が、子どもを呪縛している部分はある気がしますよね。例えば、「女のコは男に選ばれなきゃいけない」とか。経済が潤っていた時代は、それで社会が回っていたんでしょうけど、今は状況も環境も違います。コロナ禍もあって物価が上がり、経済的にもっと大変になるかもしれない。今後は親世代の考え方に縛られていたら、自分の身を自分で守れなくなってしまいます。

だから、上の世代の考えは、聞き流すくらいでいいんですよ。「これからの時代のことは、(上の世代には)わからないでしょ?」くらいの気持ちでいい。そのぶん、自分でちゃんと選択できる人、自信を持てる人になっていくことが大切だと思います。

女性が自信を持てるような環境が少ないのが問題。

――ブレイディさんの目に、今の日本の女性たちはどう映っていますか?

日本の働く女性が中心読者の雑誌で連載をさせていただいていて、20代の女性たちとリモート会議をすることがあるんです。彼女たちの話を聞いていると、女のコを呪縛しているものって、私が日本にいた四半世紀前と同じだなと感じることがあって。世界はこれだけ変化しているのに、日本の女性を取り巻く社会や経済は変わっていないんだと実感しますね。

それから、少し前に(フォーリンラブの)バービーさんと対談をさせていただいたとき、彼女がSNSで「どういう相手と結婚したいか」とアンケートを取ったら、今も“収入があって、安定した生活をさせてくれる人”という意見が多かったとおっしゃっていたのも印象的で。それは、日本の女性が自信を持てる環境が少ないからなのかなと感じます。会社でも、自分の考えで進められる立場を与えられた女性って、多くはないんじゃないかなって。

“大きな企業に入っても、会社の経営状況がいいとは言えず、責任を持った仕事ができるわけでもなく、将来に不安を抱えている人もいる。長期的に見たら、いい人を見つけて結婚した方がいいとも思うけど、女性をコンテンツとして消費しているような男性も多くて、なかなか信頼できる人に出会えない”って。それこそ、リモート会議では、「何十年前の話⁉」と驚くようなセクハラの話が出てくるんですよ。そこは、イギリスとは全然違うなと思いますね。

“No is No!” イヤなことはイヤだと
声を挙げることを当たり前に。

――イギリスでは女性たちは、どうやって自分の身を守っているのでしょうか?

コロナ禍のロックダウン中、公園を歩いていた女性が殺害されるという痛ましい事件が起きました。女性への暴力に対して多くの論文などが出たんですけど、その時に「女性は普段から夜は外に出られない。私たちは、ずっとロックダウンされているのと同じじゃないか」、「女性だからというだけで、不自由な世界を強いられているんじゃないか」と、多くの人たちが声を挙げたんですね。

一方、「そんな時間に、出歩いているからだ」、「危険な場所を歩いていた本人が悪い」という意見もありましたが、多くの女性がそれに違和感を覚えてイギリス中で反対運動が巻き起こったんです。花束を持って公園へ行く人、追悼集会する女性たちに、警察が過剰反応をして、ロックダウン中に大勢で集会をしたという理由で逮捕した。それで、さらに運動が大きくなっていきました。

10代の女のコも、怒りを露わにしていましたね。うちの息子の学校でも、授業中に女のコたちが校庭に出てデモを始めたそうです。「セクハラめいたことって、学校でもあるよね」というのが彼女たちの思い。体操服で少し肌を露出すると、口笛を吹く男のコもいるけど、私たちはそんなことはされたくない。イヤだと言っていることは、本当にイヤなんだって「No is No」とのスローガンを掲げていました。イギリスの女性たちはそうやって連携して、みんなで声を挙げることができていると思います。

女性同士が、もっと横の繋がりを持つべき。

――日本でも声を上げる女性は増えてきましたが、言えずに泣き寝入りする人も多いのが現実かもしれません。そういった女性たちが不当な我慢をしたり、自分を責めたりしないためには、何が必要でしょうか?

日本では、女性同士の横の繋がりが足りていないんじゃないかと感じるんですよね。私の保育士時代の師匠は、「女性が自信を持つために、何が一番必要だと思う? それはコミュニティよ」と言っていたんです。最近は“シスターフッド”(共通の目的をもった女性同士の連帯)の大切さが叫ばれるようになってきましたけど、「つらいときに話を聞いてくれる、そばにいてくれるだけでもいいから、女性同士の繋がりは大切よ」と。たしかに、イギリスの女性たちは、フラットに身の回りで起きていることを語り合っている気がします。やっぱり、ひとりで苦しい境地から立ち上がるのは難しい。日々会話をして、連携を作っていくのは大切だなと感じます。

愚痴でいい。日常の出来事をもっとフランクに話してみて。

私が今、日本の女性とリモート会議をするときに、テーマにしているのが「とにかく愚痴りましょう」ということ。愚痴を言い合う中で「私もそうなんだよね」と同じ境遇の人と出会うこともありえるし、もしセクハラの問題がいろんな場所で起きているなら、「あなたが悪いんじゃない。社会の構造として、セクハラしやすい環境になっているんじゃないか。何か動かなきゃ」と前向きな方向にもっていける。フランクな会話って、社会の問題をあぶり出すこともできるんですよね。イギリスではフェミニズムにすごく興味を持っている人同士が、SNSで意見を戦わせたりもしているけど、もっと敷居は低く、本当に愚痴でいいんです。とにかく、苦しむ女性たちが横の繋がりを持って盛り上がっていくことは、これからの時代、すごく大切だと思います。その積み重ねの先に、10年後の日本では少女たちが校庭でデモをするくらい、女性が当たり前に声を挙げられる世界になっているかもしれない。まずは、「ちょっと言いづらいな」と思う日常の出来事を、友だちや同僚に愚痴ってみてください。それが、最初の一歩になると思います。

Interview&Text:Akiko Miyaura Illustration:Reeya