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自信を付けるためには“経験”が不可欠「“結論ありきの文化”が不安を増長させている気がする」【ブレイディみかこ vol.2】

2022.12.12

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小説『両手にトカレフ』(ポプラ社)の作者・ブレイディみかこさんインタビュー第2弾となる今回は、「SNSでもリアルな日常でも、人の目が気になってしまう」というViVi読者の声に対して、力強いアンサーを頂きました。
自ら道を開き、いろんな世界を自分の目で見て体験してきたブレイディさんのお話には、自分らしく、そして強くハッピーに生き抜くヒントがたくさん。ViVi世代はもちろん、現代を生き抜く全世代の女性たちの背中を押してくれるはず!

どこにたどり着くかはわからないけど、
自分次第でどこにだって行ける。

――読者の中には、未来が見えづらくて不安を抱えている人、自分が何をすべきか迷っている人も少なくありません。ブレイディさんは、作家になる未来は昔から想像していましたか?

いえいえ、10年前、20年前は想像もしていませんでした。息子に「母ちゃん、何の仕事が一番楽しかった?」って聞かれたことがあるですけど、「ざっと見積もっても、4050の仕事はしていきたから、もうどれがどれだかわからない」って答えたくらい(笑)、いろんな職業を経験してきました。最終的にこの仕事に行き着いて、物書き1本で生きていけるようになったのって、50代になってからなんです。そもそも自分が決めた最終地点に、簡単にたどり着けるほど、人生は甘いものじゃない。でも、その方がおもしろいですよ。どこにたどり着くかなんてわからないけど、自分次第でどこにだっていけますから。

目標の到達点を決めても、10年後にはなくなっているかもしれない。

――どこにでもいける面白さを感じられない人は、何が原因だと思われますか?

やっぱり、安心したいんだと思います。若い世代には映画や動画を早送りで見る人も多いと聞くんですけど、それって結末を知って安心してから見たいという気持ちの表れじゃないかなって。映画や小説には最初に結末を見せて、そこに至るまでの道のりを追っていく作品もあるけれど、人生は絶対にそうはいかない。悪いけど、人生の結末を知るのは絶対にムリ(笑)! 死ぬ瞬間まで、何が起こるかなんて分からないですから。そういう“結論ありきの文化”が、むしろ安心より不安を増長させている気がしますよね。

前に大学生に話を聞いていたら、「入学した瞬間から、みんな就職のことを考えている」って言うんですよ。この会社に就職すると先に決めて、そこに向かっていくことが目的になっている。本来、大学って勉強したいこと、研究したいことがあって入るはずなのに、ひとつクリアしたら次はこれ、その次はこれと、だんだんとクリアするための作業になってしまっているんでしょうね。

でも、先を決めたところで、5年後、10年後には、目標としていた到達点がなくなっているかもしれないじゃないですか。きっと、今のように国の経済が不安定なときほど、「レールに乗らないとダメなんじゃないか」、「そのレールを踏み外したら、自分は終わっちゃうんじゃないか」と思うんでしょうけど、個人的には「そんなときほど、レールから進んで下りたほうが生きやすいかもよ?」なんて思ったりもします。

まずは挑戦。
正しかったらラッキー、失敗しても当たり前。

――ちなみに、若い世代からは、どんなアドバイスを求められることが多いですか?

「どれが、いちばん正しいんでしょうか」って、聞かれることが結構あるんですよね。みんな、すごく正解を知りたがる。今ってネットで検索すれば、何となく正解っぽいことや、近しい答えがゲットできるじゃないですか。それこそ、私たちの世代はネットが今ほど普及していなかったので、イギリスに来た当初は、何をすれば仕事が見つかるのかも、どこに行けば安くておいしいものが食べられるのかもわからなかった。言ってしまえば、すべてが一か八かのギャンブル。だから、とにかく挑戦してみて、正しかったらラッキー、失敗しても当たり前という感覚だったんですよね。

私より前にイギリスに渡ってきた先輩方は、輪をかけてギャンブルな人生を送っています(笑)。こちらで出会った80代くらいの日本人女性は、10代の頃にイギリスに留学をして現地の男性と恋に落ちたそう。でも、一度日本に帰らなきゃならなくて、3年後に必ずここで会おうと涙の別れをして文通を続けていたんですね。そして3年後、船で長い時間をかけて約束の場所に来たものの、相手は現れなかった。

目に入ったパブに入って、片言の英語で必死に説明をして、とりあえず2階の宿に泊めてもらうことになったそうです。彼と一緒になるつもりで来たから帰りの船賃も、もちろん宿泊代もない。結局、家事が得意なのもあって、泊めてもらった宿のおかみさんにメイドとして雇ってもらうことできたそうです。そこで日本で習っていた生け花の腕を生かして花を飾ったら、近くのホテルの支配人の目に留まってスカウトされ、ホテルで働いている間に地元の実業家に見初められて結婚したそう。わらしべ長者みたいな話ですよね。私が「ラッキーでしたね」と言うと、おばあさんは「ラッキーなだけじゃないんだよ。自分をオープンにしていたから、未来のほうから私に飛び込んできたんだ」って。たしかに閉ざしていたら、思いもよらない人生に出会う可能性を自ら捨ててしまうことになっていたと思うんです。

正解を求めすぎるほど、間違ったときの衝撃や落胆が大きい。

今、イギリスに来る若い人たちは、前もってネットで検索して、情報を絞って絞って、自分の中で最適化してきます。なるべく失敗のない情報を探しているから、“うまくいきたい”という頭があるんですよね。だから、外れたときや失敗したときの衝撃が大きい。レストランでも、そうじゃないですか。グルメサイトやSNSで調べて、「この店はおいしい」という頭で行くから、そうじゃなかったときの落胆が大きい。そうやって安心できる未来や正しい答えを見つけようとするあまり、あったかもしれない自己表現の場を切り捨てるのって、すごくもったいなくないなと思ってしまいます。

自信は“気の持ちよう”ではなく、
失敗やつらい境遇を乗り越えて培われていく。

――たしかに。不安や正解を求める生き方から解放されるためには、どういう行動を起こしていくといいでしょうか?

シンプルですけど、私は私でいいんだと思うことじゃないでしょうか。ただ、「自信を持ちなさい」「あるがままの自分を愛しましょう」という言葉が世の中に飛び交っているわりに、実際はあるがままを受け入れられていない人が結構いますよね。イギリスでは、若い世代の摂食障害がすごく増えているそうなんです。特にコロナ禍で家に長くいると、つい食べすぎて太っちゃうから、吐いてしまう子がたくさんいて。結局、20代の頃の自信って、「今日はメイクのノリがいい」とか「この服、似合っている!」とかいう、他人目線で自信を得ている部分がある。でも、年齢を重ねて「なんか、またシワが増えたな」という年代になると()、若いころのそういう自信ってたいして意味のないことだとわかってくる。

じゃあ、年を重ねたときに何が自信として残るのかといったら、やっぱり経験が大きい。自信って“気の持ちよう”でなんとかなるものではなく、失敗やつらい境遇を乗り越えてこそ、培われていくものだと思うんですよね。「本当に何もないところから仕事を見つけて、自分でやってきたんだから私は大丈夫」、「あんなにつらい失恋を乗り越えたんだから、なんでもできるよ、私」って、サバイブした経験が自信になっていくんじゃないかなって。
だから、失敗していいんですよ。一度の人生、自分で選んで失敗するなら、いいじゃないですか。その大変な状況を乗り越えた事実こそが、人に何と言われようと揺るがない自信になっていくんだと思います。

Interview&Text:Akiko Miyaura Illustration:Reeya