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「自分で選んだ道なら、転んだとしても立ち上がり甲斐がある」【ブレイディみかこインタビューvol.3】

2022.12.16

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他者との距離感が分からない」「失敗するのが怖い」……ViVi読者から寄せられた声を、小説『両手にトカレフ』(ポプラ社)の作者・ブレイディみかこさんにぶつけてみました。“自分の手で何かを変えられる”希望を感じられる本作からはもちろん、自ら道を開き、いろんな世界を自分の目で見て体験してきたブレイディさんのお話には、自分らしく、そして強くハッピーに生き抜くヒントがたくさん。ViVi世代はもちろん、現代を生き抜く全世代の女性たちの背中を押してくれるはず!

自分で選択せずして、失敗したときほどやりきれないものはない。

――SNSの発達もあって、人の目や意見が気になる、つい他人軸で生きてしまうという悩みを持つ読者もいます。

自分で決めて、自分でなんとかしなきゃいけないっていうときと、周りに言われてやらなきゃって思っているときとでは、やっぱり不安や辛さが違うように感じるんです。例えば、起業して今はうまくやれている人も、2、3年後を考えれば不安なわけですよね。でも、自分で選んだ道かどうかで、不安は不安でも顔に曇りがない気がします。そういう姿を見ると、やっぱり自分で決めることって大切だなと感じます。そもそも、人生って滅多に成功なんてしないもの。選んで失敗しての繰り返しが、当たり前です。ただ、自分で選択せずして、失敗したときほどやりきれないものはないと思うんですよ。

あと、これは根本的な話になりますけど、教育も大事だなと思います。例えば私は英国で保育士をしていましたが、6年ほど前、日本の保育園の現場を見学したときは、先生と子どもが1対1で過ごす時間が少なかった。その頃は、日本では子どもの数に対して保育士の数が少なかったから、みんなに違うことをさせられない。カオスになるから、どうしても同じことしましょう、まとまりましょうとなるんですよね。結果、子どもの頃に自分で選んだり、自分の思っていることを発信したりする機会が少なくなってしまいます。英国の公立小学校では4歳からレセプションクラスという半分幼稚園、半分学校のような準備クラスに入るんです。その前段階であるイギリスの保育の最大目標は、数が数えられることでも、字が書けることでもなく、自分で意見を言える子どもにしていくこと。すべての保育カリキュラムが、そこに向かっているんですね。

例えば、小さな子同士のもめごとも、親が「〇〇ちゃん、謝りなさい」と支配するのではなくて、「どうしたら解決できると思う?」と子どもに問いかけます。2、3歳だと自分で全部を考えるのは難しいので、3つくらいの選択肢を提示して選ばせるんです。その積み重ねで、4歳くらいになった時には、自分の意見を言えるようになってくるんですよね。そうやって、小さい頃から自分で選ぶ経験をするのは、大切だなと感じます。

“正しいことより、自分がやりたいこと”
を選んだほうがいい

――たしかに。何かを選択するときに、何を基準にするといいでしょう?

今って、論理的に正しいことより、より多くの人がいいと言ったものが正しいという風潮がある気がするんですね。ネット文化の上では、数の論理になってしまう。でも、多くの人が「正しい」と言うことより、自分にとってこれが正しいと思うことや、自分が行きたいと思う道を選んだほうがいいんじゃないかなと思います。

結局、世の中で正しいと言われていることだって、間違っているかもしれないですから。インターネット上で大多数の人が正しいと言っていたって、SNSでたくさんの“いいね”が付いていたって、それが素晴らしいとは限らない。本もガンガン売れているベストセラーだからいい本ということではなく、数では測れないところに、ものすごい名作や傑作がたくさん隠れていますしね。

自分の価値を自分で決められる人になる。

――一度立ち止まって、自分が本当にいいと思うのか、正しいと思うのかを考えてみることが、選択の力に繋がるんでしょうか。

繋がると思いますよ。私の著書『両手にトカレフ』の中にも、「自分の価値は自分で決める」という言葉を書きましたけど、これからの世代にもそうあってほしいなと思います。

ただ、自分だけのことを考えるのではなく、他者に対する想像力も大切してほしい。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』では、“エンパシー”という言葉で表現したんですけど、「もし、私がこの人と同じ環境で生きていたら?」「似た境遇で育っていたらどう感じるんだろう?」と、考えてみることがエンパシー。他人になることはできないから、本当に理解することはできないけれど、いろんな人のことを想像することは誰でもできますよね。

身の回りの人のことだけじゃなくて、自分が付き合ったことがないような人、想像もできない環境にいる人のことも考えてみてほしいな、と思います。生い立ちが全く違う人のこと、自分とは違う経済階級の人のこと、全然違う職業の人のこと……。たとえ近くにいなくても、そういう人に出会えるのが、本なんだと思います。はるか遠くに住んでいる人とも、何千年前に生きていた人とも、本の中では対話ができる。何を考えて、どういう生活をしていたのかを知って考えることが、他者への想像力を育てることになると思います。

わからないことをわかるようになりながら生きる。

――『両手にトカレフ』も、まさに他者をわかろうとする大切さが描かれていますよね。

貧困層のミアと似た境遇に置かれた女のコを応援したい気持ちはもちろん、まったく違う環境で生きている若い世代が、他者への想像を働かすために読んでほしいという気持ちも強くあります。

だからこそ、ミアの同級生のウィルという男のコに、「わからないから知りたい。わからない言葉の意味を少しでもわかるようになりたい。わかるための努力をしたい。だって人間は、わからないことをわかるようになりながら生きているものだよね?」と言わせました。その姿勢こそが、エンパシーを育てていくことだと思っています。

そして、エンパシーを育てることは、自分の視野を広げることにもなります。視野が広がれば、「これが正しい道だ」「この道しかない」と決めつける考えが、どれだけバカげたことかがわかる。「こうしなきゃいけない」と縛りつける考えから解き放たれれば、自分自身ももっと生きやすくなっていくと思います。

Interview&Text:Akiko Miyaura  Illustration:Reeya