神保町よしもと漫才劇場を拠点に活動している芸人「9番街レトロ」の京極風斗(きょうごく・かざと)さんは、極端なほどに“0か100か”で生きている。自分大好き人間の京極さんは、世のため人のためになるモチベーションは持ち合わせていないと断言。そんな京極さんが、楽しんでやっている「良いこと」とは? そのきっかけも意外すぎた……。
9番街レトロ・京極風斗
連載【0か100かで生きてゆく #34】
ー 僕は良い奴なので、献血に行く。 ー


Illustration: Kazato Kyogoku
おすすめの場所
献血したことありますか?
献血は良いですよ。
献血が良いというよりは、献血ルームが良いですね。
たまに街角に献血バスが停まってて、そこでやるパターンもあるのですが、おすすめは献血ルームです。僕は秋葉原の献血ルームが好きです。
まずドリンクが無料で飲み放題です。なんならめちゃくちゃ飲むように促されます。
これから最大400mlの水分が出ていくので当然です。ちょっと飲み過ぎぐらい飲んでください。
次に雑誌や漫画も読み放題です。有名どころは大概あります。
「そんなにゆっくりしてて良いのか」と思いがちですが、終わってから10分は座っていなければならないので、むしろ献血後はすぐに帰らないようにお願いされます。
これが時間を潰すのに丁度良いんですね。
ちなみにこの記事も今、献血ルームで書いてますからね。コーヒー代浮いてます。
あと、シーズン次第では特典があります。アニメのグッズだったり文房具だったり、僕は今まで7回献血しましたが、毎回何か貰って帰ってます。
何より、「良いことをした」とインスタントに思えます。
世のため人のためになることってなかなか難しいですし、僕みたいな自分大好き人間は、そもそもそんなモチベーションを持ち合わせていません。
それが、大して頑張らなくても、数分横たわるだけで確実に、しかも大きく、医療に貢献出来るのです。
ここからは個人差がありすぎる話なので、話半分で読んで頂きたいのですが、僕の場合、多少血を抜いた方が、体調が良いんですね。
プラシーボ効果みたいなものかもしれませんが、献血を続けている一番の理由はこれです。
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不純な動機
キッカケは吉本の芸人としてデビューした年。
街行く人に献血を呼び掛けるという、ほぼお手伝いの、それはそれは面倒くさい仕事がありました。
僕は「面倒くさい」という感情がハッキリと表に出るタイプでして、他の芸人に比べて、明らかに適当な呼び込みをしていました。
こんな記事を書いておいて言うことではありませんが、献血なんてやりたい奴がやれば良いんです。
興味がある人なら、呼び掛けずとも、看板一枚で協力してくれますからね。
そんなことを思いながら持ち時間を終えました。
呼び掛けが終わると、芸人も献血に協力するように言われます。あくまで「任意」ですよ。
適当な仕事をしていたことに若干の後ろめたさは感じていたので、ここで取り返そうと考えた僕は、「何ガロンでも抜いてください」と、立候補しました。
しかし、献血って意外と条件厳しいんですよね。
献血前に医師の問診がありまして、とにかく色んなことを質問されます。
その中で、「今身体のどこかに怪我はありますか」というのがありまして、右肘に治りかけの、本当に小さい、軽い軽い傷があるのを見せたところ、その日の献血は出来ないことになってしまいました。
ビックリして、50ぐらい歳上のお医者さんに「マジ?」と言ったのを覚えています。
その時に、「献血が出来る」というのは、幸運なことなんだと気付いたんですね。
とにかく、かなり健康じゃないと出来ない。
結局その日は諦めるしかなかったのですが、元気と健康が取り柄の19歳を差し置いて、同期のおじさんが献血出来ているのを見て、それがなんとなく悔しかったんですね。
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それから数ヵ月後、同じ仕事がありました。
無事に問診を終え、血を抜き終わった時の喜びの感覚が、僕にとっての献血をポジティブなものにしているのだと思います。
考えてみればそれもあって、体調が良かったのかもしれませんね。
その後、その仕事はなくなったのですが、思い立った日に、簡単な健康診断も兼ねてプライベートで行くようになりました。
精神衛生上、少なくとも血液には異常が無いと知れるのはかなり大きいですからね。
正直抜き終わった血が何に使われようとどうでもいいんですよ。あくまで自分の為にしかやっていないので。
そんな動機ではありますが、将来もし自分に輸血が必要になった時に、「献血してて良かった」と感じるだろうなと、最近思うようになりました。
輸血を受けるのは決して後ろめたい事ではないのですが、人って「貰うだけ」の状態に気持ち悪さを感じる生き物じゃないですか。
それが薄まるのは良いことですよね。
輸血の経験があると、その後献血は不可能になるので、後からではお返し出来ませんからね。
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僕の中でひとつ目標がありまして。
まだやっているのかは分かりませんが、献血に10回協力すると、記念品が貰えるようになっています。
その中にグラスがありまして、それで酒を飲むのが僕の小さな夢です。
さぞ美味しいでしょう。
これを読んでやってみようと思った方へ。
良ければ外で献血を呼び掛けている人に声を掛けてから行ってください。
「別にそんなつもりじゃなかったけど、頑張っているあなたを見て行くことにしました」みたいな顔をして。
外で献血の看板を持っている人はボランティアでやっている可能性があります。
その場合、信じられないぐらい「良い人」なので、僕たちがその人のモチベーションを上げましょう。

たとえクリスマスでも行きますよ。
僕は良い奴なので。

photo by: Ryo (Kotora)
連載『9番街レトロ・京極風斗の0か100かで生きてゆく』は第2・4水曜日に更新!
1995年8月9日生まれ。大阪府出身。吉本興業所属のお笑いコンビ。2019年4月1日に9番街レトロを結成。神保町よしもと漫才劇場を拠点に活動中。
個人チャンネル「京極風斗の道楽ちゃんねる。」ではアートとインテリアを軸に、好きなことを配信。
コンビのYouTubeチャンネルでは日々の出来事やネタの動画を配信。
そのほか、絵が得意で自らデザインしたオリジナルグッズをSUZURIで販売している。
Twitter @9th_kyogoku
Instagram @9th.kyogoku
9番街レトロってどんなコンビ?
\ 直撃インタビューしてみた /
Photo: Ryo (Kotora) Text & Illustration: Kazato Kyogoku