芸人としての新境地を開拓し、最近では「24時間テレビ」のチャリティーランナーとしての活躍も記憶に新しいEXITの兼近大樹さん。初出演の本格ドラマ「モアザンワーズ」では、自身と真逆の役柄にチャレンジしました!
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若者のど真ん中なのかな?と演じていた
──兼近さんから見た「朝人」はどんな人ですか?
素朴で、いろんなことに流されながら当たり前にただ日々を過ごしているという印象です。家を出たくて美容師の技術を身につけようと思っているけど、上司に「野心がない」と言われるんです。
でも、みんな朝人の気持ち分かりませんか? そういった経験がある人もいそうですよね。朝人って「THE 普通の人」だと思っていて……世の中に溢れる当たり前を凝縮したような人。だって、野心がめちゃくちゃある人の方が少ないと思いますしね。もしかしたらこれが、若者のど真ん中なのかな? と演じていて思いましたね。
──兼近さんにも、“ただなんとなく”生きていた時代はありましたか?
自分目線だと、全ての瞬間がただなんとなく生きていたと思うんですよ。ただ、社会に出たら、自分が当然だと思ってやっていたこととか、全然普通じゃなかったんです。僕は高校を中退しているので、普通に高校に行って普通に大学に通っている人たちの生き方を20代になってから初めて知ったんですよ。高校に行って恋愛をしたり、先生に怒られたり、学校で人気の先生のモノマネをして人気になったり……そういった経験がみんなの中にある当たり前なんだなぁと大人になって初めて知りました。
でも、それを知るのは地獄でもありましたね。吉本の養成所のNSCに入って、みんなが男子校の定番ネタで笑っている時や、サークル時代の話をしている時は「え?テニサーって何!?」ってグーグルで検索したこともありますし(笑)。みんなが当たり前として操っている言葉って、大多数の人からすれば当たり前だけど、違う環境で生きてきたた人にとっては全然普通じゃない。だから、大多数の人を見て「普通になろう」と思っていた時期もありましたね。

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──この物語でも、登場人物は「普通」という枠に悩んでいますよね。
そうですね。この物語でもそうですけど、当事者は自分の環境が全て当たり前と思っているし、自分のことを普通だと捉えているんですよね。でも、周りにいる人たちの一部はそれを「普通じゃない」と思い当事者たちを苦しめてしまう。
今の社会は、大多数の人が決めた「普通」から抜け出すのが難しいと思うんですよ。だから分断や揉め事が起きてしまうんじゃないかな……。さまざまな社会問題一つひとつに対して言えることですが、自分と他人の当たり前、どちらかが正しいとぶつかり合っている間は絶対にうまくいくわけないんですよね。
完璧に理解し合う事は難しいですが、どちらかの意見にだけ染めようとしないで相手の考えに歩み寄って近づくことはできる。そうすることで「普通」という枠に悩む人が少しでもいなくなればいいなと思っています。
そういった意味では、この作品は「普通」に苦しめられている人に寄り添いながら、こういう世界もあるんだというのを僕たちに見せてくれる物語ですよね!
──朝人を演じていくうちに、役に共感する部分はでてきましたか?
人それぞれ、抱えている大なり小なりの悩みがあるじゃないですか? 人から見たら簡単な悩みであっても、自分としてはすごく深く考えてしまう部分は分かるなと思いました。意外と、自分が他の人の悩みを聞いた時に「そんなの大丈夫だよ!」と言ってしまうことも、個人個人で悩みや痛みのレベルは違うということに改めて気づかされましたね。
僕は悩みがあっても結構すぐ切り替えられますけど、切り替えられないことももちろんありますよね。仕事では、次に繋げるためにも「あの時このワードを持っていればもっと面白くできたな」という反省をすることがあります。プライベートだと、今、自分も含め芸人3人で同居しているのでトイレットペーパーをラストちょっとだけ残しちゃって同居人に怒られたりとか(笑)。「それだったら全部使って変えとけや〜」と言われて、「あ〜使っておけばよかった」と思いますね。
──以前の兼近さんのインタビューで、「タレントというのは、普段から演じているような感覚がある」とおっしゃっていたのがすごく印象的でした。同じ「演じる」という体験でも、お芝居で演じるとはまた違う感覚なのでしょうか?
普段タレントとしてカメラの中で演じている僕は、「自分の中にあるものを演じている」という感覚で、こうしたらもっと面白くなるんじゃないかというものを自分で考えて出すものだと思うんですよね。でも今回はそうではなくて、「朝人」という役がもう出来上がっているので、自分の出したい面白さとかは全部排除しないといけない。だから、そこは難しいというか、どうしていいかわからなかったですね。ただやることしかできなかったです。
──―今回、ほぼワンシーンワンカットのように長めに撮影するのが大変そうでしたね。
そうですね、そこが難しいですよね。自然体の演技をずっとしなくていはいけないので。しかも、セリフが終わってからカットがかかるまでが長いんですよね。セリフは終わりでも、余韻の演技みたいなのがあるじゃないですか!? でもツッコミたくなるじゃないですか(笑)。「どこまであるの!」って。でもできないし……。セリフが終わってもコップをもつ演技や、口さみしくて焼酎飲んじゃう演技をしていました。
──衣装やヘアスタイルも兼近さんとかけ離れていましたね。
髪色はそうですね。でも、服装については、普段私服で朝人のような服を着ることもあります。作中で朝人が家の中で着ていた衣装も「これいいじゃん」と思って一着買い取りました!
──兼近さんは美容師役ということで、カットの練習はされたんですか?
いや、あれもほぼありのままで、妄想で「こんな感じかな?」とやっていました。カリスマ美容師という役ではなかったので、それもまたラッキーでしたね。たとえば、カットを練習しているシーンがあるのですが、そのシーンは、本当に練習している気持ちで演技をしていました。
──バラエティ番組「THE突破ファイル」での演技とはやはり違いましたか?
違いますよ! だって、「THE突破ファイル」は、リハもないしドライもないし、しかも、役名「兼近巡査」ですからね(笑)。

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Photo:Asuka Ito Styiling:Sayuri Yahaba Hair&Make-up:Chiemi Oshima Composition&Text:Sayaka Miyata