神保町よしもと漫才劇場を拠点に活動している芸人「9番街レトロ」の京極風斗(きょうごく・かざと)さんは、極端なほどに“0か100か”で生きている。その精神には悪い部分もあり、“50”ができる人が羨ましい……と感じることもあるんだとか。今回は、そんな京極さんが昔から抱えている「寝つきが悪い」という悩みに、初めてちゃんと向き合ったお話です。病院で得た知識とともにお届けしていくので、ぜひ同じ悩みを抱える人は参考にしてみて。
9番街レトロ・京極風斗
連載【0か100かで生きてゆく #38】
ー 脳。ー

Illustration: Kazato Kyogoku
「0か100か精神」の悪い部分
僕はね、昔から寝付きがめちゃくちゃ悪いんですよね。
僕が通っていた保育園にはお昼寝の時間(記憶が正しければ土曜日のみ)があったんですが、保育士の方がボクを寝かしつけるために、お腹をトントンしてくれるんですね。
それ自体は心地いいので眠れそうになるんですが、このトントンが一定のリズムから外れると、それが気になって余計眠れなくなる訳です。
結局僕にとってお昼寝の時間は、代わる代わる僕のお腹をトントンする保育士さんをお昼寝の時間が終わるまで見守るだけの時間でした。
僕が寝なさ過ぎてキレたおばさんもいましたね。
保育士向いてないって。
この不眠なんですが、20歳である意味解決します。
お酒ですね。
酔えば余計なことを考えなくなるので、「眠れない」という問題自体は解決しました。
しかし、翌日のパフォーマンスは著しく低下している訳です。
飲んで10時間寝るのと、飲まずに3時間寝るのとでは、後者の方が起きた時元気ですからね。
特に僕は、眠れたところでしょうがないぐらい大量に、限界まで飲むので、とにかく次の日がキツい。
二日酔いで過ごす一日は、もはや「生きている」とは言えないので、人生としてノーカンになります。
寿命を削ったと言って差し支えないでしょう。
これは「0か100か精神」の悪い部分ですよ。
50でやめられる人が羨ましい。
僕には50が出来ません。
ただ、0は出来ます。
得意です!
やらせてください!
ということで現状1ヵ月ぐらいお酒を飲んでおらず、とても体調が良いです。
それと引き換えに、また入眠が難しくなりました。
このままではまた飲んでしまうので、この機会に、いっそのこと病院に行こうと決意しました。
27年間、寝付きの悪さに目を瞑っていた僕が。
おっ。
「目を瞑っても眠れない」ことに目を瞑るとはこれ如何に。
お後がよろしそうですがまだ続けますね。
Page 2
眠れないワケ
とにかく、人生で初めて、自分の睡眠と向き合おうと思ったわけです。
とはいえ、薬で眠ることへの抵抗はまだあるので、なんとかそれ以外の方法を探るべく、インターネッツを駆使し、あるクリニックに辿り着きました。
脳波から原因を探る最先端医療。
「最先端医療」ですよ。
漢字が5個も並んでいてカッコいいですよね。
「芥川龍之介」みたいで。
でも最先端ってどうなんですかね。聞こえは良いですが、裏を返せばまだサンプルが少ないってことですよね。
僕はね、「勉強が得意すぎる奴」と、「勉強が苦手すぎる奴」を同じぐらい信用していないんです。
でもね、勉強が得意すぎる奴の力を借りないと生きられないんです。
半信半疑ながらも、脳波を測定してもらいました。
測定してから2時間ぐらい待たされまして。
「診断結果が出ました」っつって。
「右が平均で、左があなたです」って見せられたのがコレです。

ハート型。恋やね。やかましいわ。
こんなに違ったらあかんやん。
この脳波を元に、先生に説明してもらいました。
Page 3
簡単に言うと、脳は電気信号で動いていて、神経をコンセントみたいに抜き挿しすることで情報を伝達する仕組みになっています。
僕は生まれつきこのコンセントを抜くのが苦手で、必要のない時にも挿しっぱなしにしているせいで、混線してしまっている状態らしいです。
故に、寝る時もぐるぐる必要のないことを考えて、脳が冴えて眠れなくなっていると。
こういう脳の人は、感覚過敏で、こだわりが強く、白黒思考の傾向があるらしいです。
疑ってかかっていましたが納得せざるを得ないですよね。
「0か100か」とか言っちゃってるんで。
これは別に病気でもなんでもなく、脳の特徴でしかないので心配は無用なんですが、この特徴によって生きづらい思いをしている人も沢山いるわけです。
で、電磁波でこれを整える治療が最先端医療らしいのですが、これが保険適応外の治療で、一発2万円。
それを何回も何十回も通ってやっと改善するみたいです。
僕ね、夜寝たいだけなんですよね。
別に生きづらくはないんですよね。
もっと言うと、芸人の仕事なんてのは取り立てて激務でもないので、眠れないこと自体もそこまで深刻ではないんですよね。
何より、その脳の配線が整った状態の自分は、果たして自分なのかとも思ったんですよね。
なので、「まぁいっか」となりました。
僕は、夜寝付けない部分も含めて自分を愛することにしました。
それが人の在るべき姿だと思うから。
欠点のない人間に魅力はないから。
そしてお金がないから。
売れたらどうにかするわ。

photo by: Ryo (Kotora)
連載『9番街レトロ・京極風斗の0か100かで生きてゆく』は第2・4水曜日に更新!
1995年8月9日生まれ。大阪府出身。吉本興業所属のお笑いコンビ。2019年4月1日に9番街レトロを結成。神保町よしもと漫才劇場を拠点に活動中。
個人チャンネル「京極風斗の道楽ちゃんねる。」ではアートとインテリアを軸に、好きなことを配信。
コンビのYouTubeチャンネルでは日々の出来事やネタの動画を配信。
そのほか、絵が得意で自らデザインしたオリジナルグッズをSUZURIで販売している。
Twitter @9th_kyogoku
Instagram @9th.kyogoku
9番街レトロってどんなコンビ?
\ 直撃インタビューしてみた /
Photo: Ryo (Kotora) Text & Illustration: Kazato Kyogoku