池松壮亮インタビュー「人の評価に一喜一憂するレベルではやっていない」

2022.11.01

CMを見ると続きが読めます。CMを見ますか?

はい

ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたコラムをもとに、様々な愛にまつわる物語をオムニバス形式でドラマ化した『モダンラブ』。2019年にアメリカで製作され大ヒットしましたが、このたび、その東京版『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』がPrime Videoにてスタートすることに。その中の1話『彼は私のために最後のレッスンをとっておいた』に出演している池松壮亮さんに、愛にまつわる話をいろいろと伺いました!

――池松さんが出演された『彼は私のために最後のレッスンをとっておいた』は、映画『アラジン』のジャスミン役で話題になったナオミ・スコットさんとの共演でしたが、印象はいかがでしたか?

池松 もう何て言うんでしょう、純粋に出会いに感動できたといいますか。人柄が本当に素晴らしくて。今回の撮影はコロナ禍に、しかもアジアへイトも多発するなどいろんなリスクも多い中でアメリカに渡ったんですが、本当に温かく迎えてくれて、この物語を引っ張ってくれて、素晴らしい共演者だったなあと思います。撮影の待機中はずーっと歌を歌ってて、やはりものすごくお上手で。ジャスミン、さすがでした。

――この作品は、オンライン英会話レッスンを通じて出会ったイギリス人と日本人の、愛の物語です。オール英語でのお芝居でしたが、難しかった点はありましたか?

池松 英語でのお芝居はこれまでも何作かやらせてもらっているんですけど、毎回苦労します。とくに今回はセリフ量が多かったので、いつも以上に大変でした。いろんな人に迷惑をかけながら、何とか撮り終えることが出来ました。

――海外作品は、12歳で出演した『ラスト サムライ』から多く経験されていますよね。

池松 『ラスト サムライ』では英語は喋っていないんですけど、そうですね、他の海外作品にもちょこちょこ出たりしていたので、英語の演技じたいは初めての挑戦という感じではなかったんですけど、やはり何度やっても難しいです。

でも一つ「いいな」と思ったのは……、こういう英語で物語を語るときって、どうしてもネイティブスピーカーや、育ちが向こう寄りの方が演じる、ということが主流です。それが僕みたいな、日本人でも地方出身で東京暮らしという、生粋の日本人……。全く関わりのないところにいる2人がオンライン上で出会うという、この作品の舞台にリアリティを持って飛び込んで行けた気がして。そうすると当然、言葉も、2人が並んでる姿も、チグハグになって映る。それがチャーミングかつ、この多様な時代の何かをはらんでいればいいなと思っていました。

――まさに、かつてなら背景が違い過ぎて出会うことのない2人ですよね。そこが最大の見どころだと思うんですけど、池松さんはオンライン上で出会って恋人になるということにリアリティを感じていますか?

池松 僕の近しい人に実際そういうことがあった、という話はまだ聞かないんですけど、実際に起こっていることは自覚してます。国を越えることも多くなっている、って聞きます。

Page 2

――作中で、池松さん演じるマモルがナオミさん演じるエマに「What is love?」と問いかけるシーンがありました。池松さんがもしこのひと言を聞かれたら、何と答えますか?

池松 「パス」って答えますね()。いやあ、そんなことを語れるのか……。少なくとも人類が探求し続けてきて、それでもまだ答えを出していない課題だと思うので。そして永遠に答えは出ないとも思うんです。愛の形だけ取っても、無限にあるじゃないですか。今ここにこうして出してくれているコーヒーだって愛だし、文字だって愛だし。その大小も様々で、人それぞれで、角度によっても変わるし、全てが愛であると捉えることも出来る。愛って恐らく概念ですよね。神様って何ですか、映画って何ですか、ということと同じで、その捉え方とか信じる重みは人それぞれ、その時々で全然違う。ただ一つ言うなれば、こうして世界の大きな転換点というものを経て、いろいろと世界の破壊のタームを見て、なかなか出口が見つからない中で、「愛って何ですか?」と見る人も演じる僕らも問い直す――、何かそのことに価値があるような気がしました。

――この作品は、「勘」が大きなテーマとなっています。作品の中でエマが、「行き当たりばったり派か、計画派か」と質問していましたが、池松さんはどちらタイプですか?

池松 ものすごい計画派だと思いますね。行き当たりばったりすらも計画するというか。あえて何も決めずに飛び込む、ということにもトライはするんですけど、それも全部頭で計算してから飛び込んでいる、という感じで。基本的には計画派で慎重なタイプだと思います。

――仕事やプライベートで、「勘」に頼ることはありますか?

池松 それは大いにありますよ。やはり答えがないものに対しては、勘を頼るしかないと思うので。むしろ勘だけが頼りかもしれません。とくに俳優は、一つ一つ選択していきながらキャリアを積み上げていく、というような仕事なので、何を選択の助けにするかといったら、最後は自分の勘に頼るしかない。そうすることでしか自分自身や相手への責任の取り方がないと言いますか。この物語では「勘を研ぎ澄ませていく」ということを言っていますけど、まさにその通りで。沢山失敗しながらも、勘というのはずっと頼り続けているものですね。

――アメリカ版の『モダンラブ』をご覧になられていたら、是非その印象もお聞かせください

池松 すっごいオススメですよ。エンターテイメント作品において普段はスポットの当たらない人たちにライトが当たっているところが素晴らしいと思っています。実際、僕の演じたマモルもそうなんですけど、彼はミスターコーン、つまりとうもろこしの研究者なんです。主人公の設定として、なかなかないですよね。そもそもこの作品集は、実際にあった物語のコラムがあって、そこからドラマ化されているので、本当に普段の映像作品には転がっていない話ばかり。ちゃんと路上に転がっている物語をすくい上げているので、もう、壁ドンとか見るより全然いい()。圧倒的に共感できますし。人を想うことの数々の物語に触れて、人を信じてみよう、人に何かを伝えてみようという気持ちにさせられます。壁ドンとか、普通に生きていて遭遇しないじゃないですか。だからいいのか? 

Page 3

――『モダンラブ』の中で、とくにお気に入りの話ってありますか?

池松 あえて1本挙げるなら、シーズン1の1話目の『私の特別なドアマン』が、ど頭から素晴らしいです。ドアマンと、そのマンションに住む女性の物語。そんなふうに普段はスポットの当たらない、でも確実に人の数だけ存在する愛の形をドラマ化しているこのシリーズがとても好きです。

――リアリティがあるだけに、原作がある作品とはまた違う面白さがありますよね。

池松 なかなかこの国ではエンターテイメントにならない物語ばかりですからね。当然ですけど、街で会う全ての人に愛の物語があって。そういうことも想像できるようになる作品集じゃないかと思います。学校や職場や家で「壁ドンとか起きないかなあ」って思うよりも、はるかに優しい気持ちになれるはずです。ずっと壁ドンを否定していますけど()。愛されたいより、誰かを愛したいと思える物語こそがほんとのラブストーリーだと思います。

――ご自身の中で、いい仕事(演技)ができたと実感するのはどんな時でしょうか?

池松 それはやっぱり、いいものが出来上って、かつそれがちゃんと人に届いたときだと思います。自分だけがお気に入りでも良くないですし、人に届いたからといって、自分が納得できたかというとそうでもないときもありますし。物作りをやっているわけですから、やはりいいものが出来上って、たくさんの人にちゃんと届いた、この両方が感じられたときが嬉しいですね。

――そうすると、人の評価はよくチェックされたりするんですか?

池松 SNSの感想とかは一切見ないんですけど、とはいえ入ってきますよね。僕自身も「届いているかいないか」というのは把握するようにもしていますし。一緒に作っている沢山の人たちがいて、目の前ではなくともお客さんを相手にしている以上、SNSを見ずとも、この作品がどういう風に捉えられているか、感覚的に把握出来るものです。

――そこで人々の反応に一喜一憂してしまったり、振り回されたりすることはありますか?

池松 こう言っては何ですが、そういうところで一喜一憂するレベルではやっていない、といいますか。言われなくても作品の出来についてはちゃんと自覚しているし、プロとして四六時中、長年、考え取り組んでいるわけなので、人々の反応は「今の世の中の気分」とか「データ」としては受け取りますが、振り回されることはありません。それくらいの責任と言うか、自分への信頼がないと、人に届けちゃダメだと思うんですよね。お金や時間をいただいて観てもらっているわけですし。その上でいただける感想というのは、何よりの励みと学びになります。

――近年は海外作品に積極的に出演されている印象です。そこから自分自身の変化を感じられていますか?

池松 当然ですけど国が変われば常識が通用しないし、これまでのキャリアは海外に行くとほとんど関係ないですし、向き合うエネルギーは普段の何倍も必要になるし、大変なんですけど、その分かけがえのない経験と出会いがあります。その作品をやらなければ出会わなかった人たち、環境、考え方、街、感動など、いろんなことがあります。本当に自分のこれまで育った環境とはかけ離れたところでの出会いというのは、毎回感動しますし、価値ある経験だなあと思いますね。

Page 4

――そこから、日本での活動にも変化が生まれてきました?

池松 そこはあくまで自分のキャリアの一環、経験の一つとして捉えているので、海外だから、日本だからという考え方はあまりしていません。でも確実に日本ではできない大きな経験をして、それをまた日本でやる時に、外で見てきたもの得てきたものを還元していくことはできるのかなあと思っています。

――「NO」を言うこと然り、海外では自分の意見や気持ちをハッキリ主張できないと厳しい、と聞きます。愛情表現も同じだと思いますが、池松さんは愛情表現はできるほうでしょうか?

池松 できるって言いたいですけど、ヘタだと思います()。とてもじゃないけど、できるとは言えないと思います。

――もっと愛情表現できるようになりたい、とは思われますか?

池松 なりたいし、なるべきだと努力しています。一方で、手軽に消費するようにはなりたくないという思いもあって。やはりこの国の価値観、文化で育ってきたので、そこはずっとせめぎ合いながらも、マモルのいうように、愛は努力だと、信じていたいです。

――答えにくい質問ばかりだったと思いますが、深いお答えばかりで考えさせられました。今日は本当にありがとうございました。

『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』

Prime Videoが豪華監督と俳優陣で送る、オムニバス形式の7つの愛の物語。池松さんが出演しているのはEpisode6『彼は私に最後のレッスンをとっておいた』。世界中の生徒にオンライン英会話レッスンをおこないながら、旅を続けているイギリス人のエマ(ナオミ・スコット)。ある日、日本人男性のマモル(池松壮亮)が生徒としてやって来る。トウモロコシの研究をしているという彼に、エマはある質問を投げかけられ心揺さぶられる。しかし彼は突然、「今日が最後のレッスンになる」と告げてきて……1021より世界配信スタート。

池松壮亮

199079日生まれ。福岡県出身。2003年に、トム・クルーズ主演の映画『ラストサムライ』で映画デビューを果たし、注目を集める。その後も映画、ドラマで多数の作品に出演し、数々の賞を受賞するなど若手実力派の地位を不動のものとしていく。近年の主な出演作として『夜空はいつでも最高密度の青色だ』『斬、』『宮本から君へ』『ちょっと思い出しただけ』など。2023年公開予定で大きな話題となっている映画『シン・仮面ライダー』では主演を務める。

Photos:Tohru Daimon
Interview&Text:Naoko Yamamoto