4月より放送中のアニメ『スキップとローファー』。その主題歌『メロウ』が「良すぎる」「泣いてしまう」と好評を博しています。歌っているのはシンガーソングライターの須田景凪(すだけいな)さん。実はボカロPの“バルーン”としても超有名人。もともと原作漫画『スキップとローファー』の大ファンでもある須田さんに、『メロウ』へ込めた思い、さらに学生時代を経てボカロPとして活躍するまでの経緯、そこから “須田景凪” が誕生するまでをたっぷり聞かせていただきました!

『メロウ』は過去イチ、キラキラに振り切った曲
――新曲『メロウ』は『スキップとローファー』のために書き下ろしされた曲とのこと。どういった思いを込められたのですか?
今まで僕の楽曲って、あまりキラキラしたものってなかったんです。そんな中で、このキラキラした作品の主題歌のお話をいただけて。
まず、自分とリンクする部分はどこだろう?と探すところから始まりましたね。当初は原作の雰囲気を全て詰め込んだ世界観を描こうかな、と思ったんです。でも原作を読み直せば読み直すほど、志摩君目線の美津未ちゃんを描きたいと思って。
自分が志摩君だったらどう思うだろう?とか、どういう言葉が言えるだろう?とか、そういったことを想いながら書いていったら『メロウ』という曲が生まれました。
――すごい、キラキラした思いが一直線に伝わってくる曲だなと感じました
自分の曲では過去イチ振り切ったと思いますね(笑)。
このお話をいただかなかったら、自分の中から自然に生まれてくることはなかった楽曲なので、いざ書いてみて、とても思い入れが深くて気に入ってるいる曲なんですよ。
▼須田景凪『メロウ』(Music Video)
――作るうえでつまづいたことや、大変だったことはありましたか?
『スキップとローファー』は、楽しいことから切ないこと含め、高校生活の青春を広く描いているじゃないですか。でも僕は、高校1年で学校を辞めているんですよ。高2からは定時制みたいなところに通って大学に進学したので、まずシンプルに、美津未たちが過ごした高校生活を想像することに時間がかかりました。曲を書かせていただく以上、できる限りこの作品の温度感に自分を溶け込ませたかった。それで何回も原作を読み直していくうちに、美津未たちの等身大の気持ちが掴めていった気がしますね。
――歌の中で気に入っている部分を、是非教えてください
原作の中で、とくに好きな2ページがあるんですよ。で、まさにその2ページを体現したような歌詞が、1サビと3サビにあるんですね。そこが自分の中で一番原作に寄り添えた歌詞になっているので、気に入っていますね。
――ちなみに、その2ページとはどこでしょう……?
コミックス3巻の……、まだアニメでは放送されていないので先に言っちゃって申し訳ないんですけど、志摩君が美津未の背中を見ながら「ためらいなく真っすぐ進んでいけるきみらのほうがずっとまぶしくて遠いよ」と思うシーン。そして、逆に美津未が志摩君の背中を見ながら「うれしいことはむしょうに話したくなったり、不思議です」と思うシーン。
どちらもお互いの心象を描いているんですけど、すごく自分にとって印象深くて。お互いに思っていることはあるんだけど、半分怖くて言えないというのもあるし、心の内にしまっておくことに意味があったりもするし……。すれ違いっていうと、もの悲しい響きになっちゃうんですけど、この内面をイメージできるような詩を書きたいな、と思ったんですよね。
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僕の推しキャラは断トツで志摩くん
――須田さんはもともと原作が大好きだったとのことですが、須田さんの推しキャラを教えていただけますか?
僕は断トツで志摩くんです。初見こそ誰にでも優しくて、いわゆる愛されキャラ的な存在かなと思ったんですけど、実は一般の人が持っていないトラウマみたいな過去があって。だからこそ皆にふりまける優しさがあるというか、常に全体が見られる人間になっていると思うんですね。
あとは単純にあの人懐っこい雰囲気が好きです。自分とは真逆で、だからこそ憧れるなあって。
――では自分はどのキャラクターに近いと思われますか?
読めば読むほど、自分は村重結月さんみたいなタイプに若干近いのかなあという気がしています。
一見、冷たくて人嫌いそうに見えるけど、本当は全くそんなことはなくて、むしろ隔てなく人間が好きというか。あの温度感は少し分かる気がするなあ、というものがありますね。
――アニメの見どころとなると、須田さん自身はどこだと思われますか?
これまでの放送を見た感想としては、本当に原作に忠実に描いているな、という印象が強くて。
原作を知っているとアニメを見たとき、乖離する部分を感じることもあると思うんです。でもこの作品は、原作への愛がめちゃくちゃ忠実に反映されているなと思って。それはドラマチックなところもそうだし、コメディな要素もよりポップに伝わりやすくなっているし。
見ていて「そうそう、こういうことだよね」と感じたので、僕的な見どころというとそういうところですね。

©高松美咲・講談社/「スキップとローファー」製作委員会
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『スキップとローファー』とは真逆だった高校時代
――高校は1年で辞められたとのことですが、どんな高校生だったんでしょうか?
僕は軽音部的なものに入っていて。当時は歌じゃなくてドラムをやっていたのですが、いわゆる6限目あたりで学校に来て、部活だけやって帰るというような、振り返ってみるとあまりよろしくなかった高校生でした (笑)。
とは言ってもグレていたとかそういうことではなくて、朝が苦手過ぎて起きられなかった感じですね (笑)。
――でも部活にはマジメに行っていたんですね
当時はドラムで生きていきたいと強く思い始めた頃だったので、3、4個バンドを掛け持ちしていたんです。
だから高校時代の思い出は、ドラムでいろんなバンドを回っていた、というのが一番大きいですね。当時は好きなものにしか興味が向かなくて、それ以外はシャットアウトしてしまっていましたね。
――じゃあ原作を読まれると思うところがいっぱい……?
本当に彼らのようであれたらどれだけ素敵だったか、というのは何度も思いましたね。
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曲を作ったものの
歌ってくれる人がいなかったドラマー時代
――須田さんはもともとはドラムをやっていたとのことですが、そこからボカロPとして活動するようになったのは何がきっかけだったんでしょう?
さっきお話したように、僕は高校は1年で辞めちゃったのですが、辞めた後もずっと続けているバンドが一つありました。で、そのバンドで売れたいと思って、音大のドラム科に進学して。
だから当時の僕は作詞作曲のことは全く分からなかったのですが、分からないなりに「そこのメロディは悲しいほうがいいんじゃないですか?」とか「そこのコードはこういう感じがいいんじゃないですか?」とかアイディアを出していたんですね。でも音楽を作る人たちって自分も含め我が強いので、一つもアイディアが通らない時期が2年ぐらい続いていて。
――2年もですか!
はい (笑)。そうしたら、2年分のアイディアで自分の作品が作れるんじゃないか、と思うようになって。
とはいえ僕はドラマーなので自分で歌ったことがなかったし、近くに自分が作った曲を歌ってくれる人もいなかったし、そもそも自分が作った曲を人に聴かせるのも恥ずかしくて。
なので、自分の曲を歌ってもらうならボーカロイドしかないな、と思ったわけです。
――なるほど。ボーカロイドはチャンスを提供してくれる場でもあるんですね。
今も昔も変わらないんですけど、ボカロPってプロの音楽作家の方もいれば、「一週間前に作曲を始めました」みたいな方もいて。キャリアとかクオリティとか関係なく同じ土俵で戦えるんですけど、そこが自分にとって今も好きなボカロ文化の特徴です。
ボカロ曲をみずからセルフカバーして大ヒット
――ではドラマーからボカロPになったきっかけを教えてください。
僕の場合、楽曲制作はまず鼻歌でメロディを奏でて、弾き語りみたいな感じで作っていくことが多いのですが、そうやって何年も作り続けていたら、少しずつ歌うことが大好きになっていって。
それで自分の曲のセルフカバーを投稿していたんですけど、その中で『シャルル』という曲をカバーしたら、これがすごく多くの人に聴いてもらえる機会になって。
――バルーンの代表曲とも言える一曲で、本当に多くの人にカバーされていますよね。カバーされたものってお聴きになるんですか?
自分はめちゃくちゃ聴いてますね。ボカロPとしての活動を始めたのは2013年なんですが、いまだに初めて投稿されたカバーも覚えています。自分の作ったメロディと歌詞が、その人に届いてその人なりの解釈になってあらためて世の中に出てくる。そういう一作は、クオリティとか関係なくシンプルに嬉しいですね。
▼バルーン『シャルル』(self cover)
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“バルーン”から“須田景凪”が誕生した理由
――須田さんは現在、“バルーン”と“須田景凪”の2つの名義で活動されています。あえて名義を分けることで、自分の中ではどのような違いが生まれているんでしょう?
バルーンというのはボカロPとしての名義です。ボーカロイドを用いて楽曲を作っているのですが、このボーカロイドカルチャーって、ただ楽曲を出して終了というのではなく、出した後にそれを別の人が歌ったり踊ったりして投稿する。そういう、楽曲と二次創作がセットになっている文化だと思うんです。だから自分の中ではバルーンの楽曲は、ある種、誰が歌ってもその人の作品というか、その人の解釈になる音楽、というところを意識していつも作っています。そこから自分が歌う意味とか、もう少し自分のパーソナルな部分を大事にしたいと思った時に、須田景凪という名義を新たに設けて活動するようになったんです。
――そういう経緯だったんですね。お話を聞いて、ボーカロイドカルチャーというものの本質がすごくよく分かった気がします
自分が歌うからこそ意味のあるものと、たくさんの人にカバーしてもらって表現や解釈がどんどん広がっていくものの良さって、全然別のベクトルにあると思うんですよ。今回の『メロウ』もまさにそうなんですけど、「これは僕の解釈です」というアウトプットができた。
そういう意味でも名義を分けないと、自分だけでなく聴いてくれている側も混乱するだろうな、というのがすごくあったんですよね。
――今後はどういうスタンスで活動していきたい、と考えられていますか?
ずっと前から思っているのは、名義を分けているからこういうバランスでやっていこうとか、ガチガチに絞らなくてもいいな、ということ。
その時々で自分がやりたい方をやるというのが、すごく自分のスタイルに合っていると思うので、活動の流れとしてはそのときやりたいものに、流動的に、忠実に、やっていけたらいいなと思っていますね。
音楽と共に新しい場所をたくさん訪れたい
――では、これを達成したいみたいな具体的な目標はあったりしますか?
目先の話としては……、5月に須田景凪名義で約2年ぶりにフルアルバム『Ghost Pop』をリリースします。『メロウ』も入っている1枚なんですけど、リリースした数日後にライブをするんです。
このままいけば、おそらく3年ぶりに声出しができるライブになると思うんですが、それこそ3年前はまだ、須田景凪として自分個人が表に出るということに全然慣れていなかった。でもこの3年を経て、ライブにもやっとストレートに向き合えるようになってきて。なのでおそらく、今までのライブで一番熱量があるものになるんじゃないかと思っているので、ひとまずライブのことだけ考えてやり切りたいなと思っています。

『Ghost Pop』左)初回生産限定盤 右)通常盤 特設サイト
――ちなみに、プライベートで挑戦したいことはありますか?
音楽が一番の趣味なので……。でも、どうしても音楽を作っていると外に出なくなっちゃうし、誰とも連絡を取らなくなってしまうので、外出を好きになるところから始めたいですね。自分の音楽と共に新しい場所に行ける、みたいな感覚が自分はすごい好きなので、そういう機会がもっと多くなったら嬉しいですね。
――やっぱりいついかなるときも音楽と一緒なんですね!
では最後に、ViVi読者に向けてメッセージをお願いできますでしょうか
『スキップとローファー』のキャッチコピーとして、「この子といれば、いつのまにかハッピー」というものがあって。
原作みたいな素敵な高校生活を送っている方も、僕みたいに真逆の高校生活を送っている方もいると思うんですけど、僕にとっては読んでいて前向きになるだけでなく、今、当たり前の人間関係をもう一度見直そうという感覚にもなる作品なんです。
高校生活を失っているからこそ、この瞬間にある人間関係の尊さみたいなのをすごく感じるというか。
その想いはアニメにも、楽曲にも強く反映されていると思うので、そういうところも含めて楽しんでもらえたら嬉しく思います。
Text:Naoko Yamamoto