“Z世代的価値観”について綴られたエッセイ『世界と私のAtoZ』の著者であり、SNS上で自身の意見をはっきりと発言する姿勢にも注目を集める、アメリカ在住のZ世代・新星ライター竹田ダニエルさんとViViモデル・藤井サチさんに、社会との向き合い方・最近の気になる話題について語り合ってもらいました。
今回対談するふたりのPROFILE
竹田ダニエルさん(以下、ダニエル)
1997年生まれ、カリフォルニア州出身・在住。リアルな発言と視点が注目されている、Z世代の新星ライター。「カルチャー×アイデンティティ×社会」をテーマに執筆中。実は、本職は理系研究者であり、日本と海外のアーティストを繋げるエージェントとしても活躍、そして実はViViを愛読していたという一面も。【Twitter:@daniel_takedaa】
藤井サチさん(以下、サチ)
1997年生まれ、東京出身・在住。2012年にモデルデビューし、2017年からViViモデルとして活動。食育インストラクター2級を取得したり、新書&ビジネス書を読んで知見を広げていたり、勤勉な一面も。【Instagram:@sachi.fujii.official】
vol.5 ”多様な社会“を生きていくために
同世代でありつつも、住んでいる国・職業などバックグラウンドが異なるふたり。一体どんな対談になるのでしょう? 第5回は「多様性」について。多様な価値観が広がる一方で、多様性を盾にした差別も生まれている……? 真の”ダイバーシティ”な社会を実現するために必要なことは何のか、考えました。
なんとなく不安になるのは
「考える習慣」がないから
――Z世代を象徴する言葉に「多様性」があります。様々な選択肢があることで自分らしい人生を送れる一方で、編集部によるアンケートでは「多様な価値観が存在する世の中だからこそ、答えの種類が増えすぎていて怖い、不安」という声も聞かれました。
ダニエル 「間違ったらダメ」とか「間違えたら恥ずかしい」という教育をずっと受けていると、間違えることが怖くなって、すべてにおいて「正しい答え」を最初から探そうとしてしまう。例えば、日本での英語の授業では一個の文章に空欄があって、”ここに入る単語何でしょうか?”と穴埋め形式で聞かれるわけじゃないですか。でも、そもそも生きていく上で正しい答えなんてないと思うんです。私も、SNSやメディアでいろいろな発言をしているけれど、「これが絶対に正解!」と主張したいわけではない。例えば、自分が最近トークイベントとかをやらせていただく機会が増える中で、「エンターテイメントの本質は何だと思いますか?」、「今後のZ世代がどうなっていくのか教えてください」と聞かれたことがあって。その時もいやいや、自分は絶対的な神ではなく一つの意見として聞いてほしいだけなんです、と思いました。
正しい答えなんて存在しないからこそ、自分で学びを通して考えて、最善の選択をするトレーニングを積み重ねていかないといけないんですよね。学校を出るまでは先生の言うことを聞くのが善とされているけれど、学校を出たら、大人の言うことを聞いててもうまくいかないことのほうが多いわけだし。
サチ たしかに、先生が「ああだこうだ」と指示していたのって高校まででしたね。その後は、誰も何も管理してくれないし、すべて自分で考えて行動しないといけない。
ダニエル でも、考える習慣が身についていないと、誰かに答えを教えて欲しくなっちゃうんですよね。言い切り系、つまり論破するタイプのYouTuberの人たちが人気があるのも、「この人たちが、手っ取り早く答えを教えてくれる」って錯覚してしまうからなんじゃないかな。
サチ 論破系の人って言い切っててカッコよく見えるんだけど、否定するだけじゃなくて「そういう意見もあるよね」って尊重することが大事だと私は思う。“否定”じゃなくて“尊重”。その上で「でも、私はこう思うんです」って、自分の意見も発信して、いろいろな意見を積み上げていくプロセスが大事ですよね。
“差別”を“多様性”にすり替えないで
ダニエル まさに多様性ですね。あと、多様性を語るときに、忘れてはいけないことがあると思うんです。以前、日本で同性婚をめぐって「見るのもイヤだ」と発言した官僚が更迭された時、「多様な社会なんだから、『LGBTQを見たくもない』と発言したっていい。それも多様性の一つ」という意見がネットにたくさん書き込まれていましたよね。でも、そこには人権という観点が欠け落ちてしまっている。
他の人と同じ権利が備わっていないからそれを尊重できるようにしなければいけないという問題なのに、“差別”が“多様性”にすり替わってしまっているんです。
サチ 生きていく上での正解はないけれど、こういった人権の問題については“正しい答え”はあるんですよね。ただ、それ知らない人もたくさんいると思う。人権についての意識を身に着けるには、やっぱり教育の中できちんと学べるようにすることが大事ですよね。日本では数年前に学習指導要領にLGBTQや性の多様性について記載するかどうか議論があったんですが、結局、記載を見送った経緯がありました。以前も話したように、もう社会は変わっているのだから、教育もアップデートが必要だと思うんだけどな……。
ダニエル 日本でもマイノリティとして抑圧されている人はたくさんいるのだから、当事者の声を聞いて人権を尊重するという考え方が教育の段階から徹底されていかないといけないですよね。アメリカでは、「文化の盗用」が、よく話題にあがるんです。これは、コーンロウ(頭髪全体を細かい三つ編みにするスタイル)のような黒人オリジナルの髪型を真似たり、黒人のアクセントを使ったりして、黒人が直面してきた差別を受けることなくブラックカルチャーを用いることで注目を集めようとすること。
この前も、ある日本人アイドルグループが黒人オリジナルのヘアスタイルを真似ていたので、それを直してほしいという声がブラックのコミュニティから上がったんです。この一件に対して、「これがダメならヒップホップも黒人のマネなんだからダメじゃないのか」とか「こういうこと言ったらキリがないし、窮屈」みたいな意見がネット上にたくさん見られました。でも、ブラックのコミュニティにはこれまで髪型を自由にできずに抑圧されて、髪型だけで人種差別を受けてきた歴史がある。その当事者たちが「やめてほしい」と言う声は尊重せずに「窮屈になるからイヤ」というのは、人権の視点が欠け落ちていると思う。こういうことを言うと、「難しい問題ですよね」に終始しがちなんだけど、「難しい問題だよね」で終わらせるのが一番よくないと思うんです。
サチ 私は、友達の長谷川ミラちゃんが社会問題について発信していて、いつもいろんなことを教えてもらっているんです。彼女と何かの話をしていた時に「そういうの、本当に大変だね」って他人事みたいな言葉をポロっと言ってしまったことがあって。
その時に「そうやって『大変だね』って思えることが、すごく特権を持っているってことなんだよ」ってミラちゃんに言われたんですよ。その一言で、世の中はすごく複雑だしいろんな人がいるんだと痛感して……。これが、結果的に社会のことについて勉強を始めるきっかけになりました。
ダニエル 知識は、自分を守るための武器になるんですよね。多様性についても、こう考えたらいいんじゃないかな。たとえば、昔は限られたサイズの服しか売っていなかったけれど、今ではいろんなサイズや色の服が売っていて、自由に選べますよね。かつては「痩せていなきゃいけない」っていうのが世の中の“正解”とされてきたかもしれないけど、それはブランドによって作られた不健康なイメージだったんだ……と気づけるようになったのは、選択肢が広がったからであり、そして世の中についての興味や知識を持ったからこそ。それを知ったところで今すぐ自分の身体を愛せるかというと、なかなか難しいかもしれないけれど、いろいろな選択肢があることを知っておくだけでも大事だと思います。
サチ 選択肢が増えた社会は、みんなにとってもっと自由に生きられる社会っていうことなはずですよね。
ダニエル だから、「たくさんの価値観が存在している」って、決して悪いことじゃない。むしろ、もっと肩の力を抜いて自由に人生を歩んでいけるようになるために、必要なものだと思っています。
ふたりの対談をもっと読む
vol.1
「本当に、今の自分じゃダメ?」
ダイエットとセルフラブ⁉
vol.2
「ずるい!」ベースの考え方って……
人間関係とセルフケア
Interview&Text:Miho Otobe Illustration:HARUNA MAEDA