LGBTQ+は、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルやトランスジェンダーなどの性的マイノリティを指す言葉。最近はメディアで取り上げられることも多くなった一方、まだまだ多くの当事者が悩みを抱えていたり、当事者でなくとも実情をあまり知る機会がないのが実状ですよね。6月は、世界各地でLGBTQ+の権利を啓発するための活動が行われる「プライド月間」です。イギリス人の同性パートナーと英国で結婚し、現在はロンドンで暮らすKanさんに、10代に抱えていた悩みや、当事者をサポートする際に大切なことについてもリモート取材!
PROFILE:Kanさん
大学在学中のカナダ留学を経て、卒業後に渡英。ロンドンの大学院でジェンダー・セクシュアリティについて学び、帰国後に化粧品会社に入社。2019年にNetflixの人気番組『クィア・アイ in Japan!』に出演。2021年イギリスに再び渡航し、英国人の同性パートナーと結婚。現在、ロンドンで生活中。今回のリモート取材にて、Kanさんからの第一声は「こんばんは」と日本時間に合わせた挨拶。Kanさんの「相手へ寄り添う意識」を早速感じる場面がありました。
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遠距離恋愛とまさかの
コロナ禍を経て英国移住。
同性パートナーと結婚するまで
——2021年にイギリス人のトムさんとご結婚され、現在はロンドンで生活されていらっしゃるんですよね。実は偶然なのですが、インタビュアーの私にもイギリス人女性のパートナーがいて、彼女と同性婚して昨年からマンチェスターで暮らしています。そんな似たような境遇もあって、今日はお話を伺うのをとても楽しみにしていました。
Kan マンチェスターにお住まいなんですね! すっかり日本から取材していただくものと思っていたのでびっくりしました!(笑)こちらこそ今日はよろしくお願いします。
——夫のトムさんとは、どんな風に出会ったのでしょうか?
Kan 大学在学中にカナダに留学し、その後ジェンダー・セクシュアリティについて学ぶために、ロンドンの大学院に進学しました。トムに会ったのは、大学院生だった頃です。
——イギリスに移住されるまでの3年間、Kanさんは日本で、トムさんはイギリスでと、しばらく遠距離で生活されていたそうですね。
Kan 大学院を卒業した当時、トムはロンドンの企業で働き始めたばかりで、僕の就職が日本で決まったこともあって、そこから遠距離恋愛がスタートしました。3年という期限を2人で決めて、「3年後にイギリスで、もしくは日本で同性婚ができるようになっていたら日本になるかもしれないけど、どちらかの国で一緒に暮らそうね」とゴールを定めていました。
3ヵ月ごとにお互いの国に行き合うという計画も立てていたのですが、2020年に予想外のパンデミックが起きて。会えない日々が続きましたが、2021年7月に婚約者ビザ(Fiance Visa)でイギリスに渡航し、9月にイギリスの法律下で正式に結婚しました。現在は配偶者ビザ(Spouse Visa)で滞在しています。

Kanさんとトムさんの結婚式での様子/©Visu
「自分の“好き”は周りと違うんだ」
孤独に感じ、悩んだ10代
——私も含め、性的マイノリティの場合、自分は周りと少し違うかも……と気づくきっかけが人生のどこかであるかと思うのですが、Kanさんはどうでしたか?
Kan 僕は中学校後半くらいのときです。それまでジェンダーに関係なく遊んでいたのが、ちょうど男女別のグループに分かれてくるような時期で、男子グループでもよく恋愛の話になっていました。異性愛が前提で、「好きな女の子は?」といった話題になり、そのときに男友達の話している「好き」と、自分自身が女の子の友達に対して感じる「好き」が違っていることに気づいて。自分は恋愛的に男の人が好きなんだなと理解しました。
——当時しんどかったのは、どんなことでしたか?
Kan 高校生になってから本格的に悩むようになり、親と親友にはカムアウトして、実際に「KanはKanだよ」と声をかけてもらったんです。ただ、当時の日本では、報道などで「LGBTQ+」といった言葉が取り上げられることがほとんどなく、どんな困難に直面するのか、どうしたら辛さを取り除けるのかなどについての情報を手にする機会が、僕自身も、そして周囲にもありませんでした。自分と同じような人やロールモデルに会う方法も分からず、ひとりぼっちに思えて、将来も見えてこず当時はとても辛かったです。高校も一度退学し、その後通信制高校を経て、大学に進学しました。
「自分らしく」生きる姿を初めて見た。
カナダ留学が大きなエネルギーに
——大学時代にカナダへ留学したとき、日本とギャップを感じた点はありましたか?
Kan カナダでは2005年から同性婚が合法化されていたこともあって、渡航前から性的マイノリティにとって生きやすい国なのだろうなというイメージを持っていました。想像した通り、幸せそうに、自分らしく生きる人たちの姿を初めて目の当たりにしたり、プライドパレードに参加したりしたことが、自分にとって大きなエネルギーになりました。

カナダ留学中のKanさんとお友達
——大学院進学も、カナダでの経験がきっかけになっているのでしょうか?
Kan そうですね。留学から帰国後、大学の教授から僕自身の話をしてくれないか?と頼まれ、話す機会をいただいたことがきっかけ。アクティビズムに関心を持ち、僕自身もLGBTQ+のサークルを立ち上げました。ただ、そのなかで自分の経験については話せるけど、社会のなかでその経験がどんな風に位置づけられるのかが分からず、また自分以外の性的マイノリティについてもよく知らないことに気づかされ、もっと勉強したいと考えて大学院進学を決めました。学びを経た今なら分かりますが、中高生のあの頃は自分の状況を言語化できなかったことが苦しかったですね。
いま僕は勉強したり人と繋がったことで、社会の不平等も知って自分が苦しい理由を言語化できているけれど、当時(中高生時代)は混沌としていたんですよね、ただ生きづらい、みたいな。言語化ができないから、なんで苦しいかも分からない、でも僕が悪い気がするって状況でした。
――自分を表現する言葉がないことって本当に辛いですよね。私の場合、身のまわりで「同性愛・ゲイ・レズビアン」という言葉を伏せて喋る人が多かったから、悩んでいる時にも「あ、自分は同性愛だからこう思ってるんだ」という考えになかなか気づけなかったです。
Kan そうなんです。性教育の授業で「思春期になると異性に惹かれるようになります」という教科書に載っている一文を読み上げた後に、先生が「まあそうじゃない人もいるけどね」なんて言って笑っていた状況もぐさぐさと刺さっていたし、その“ぐさぐさ”を受け入れてしまっていた。悩んでいても、人に話せず隠して「自分で自分をないことにしないといけない」というのも辛かったんじゃないかと思います。
――Kanさんのいまのお話を聞いて、改めて「言語化できること」の大切さを強く感じました。
「プライド月間って何のため?」
「知人からカムアウトされ時どうすればいい?」
インタビュー後編では、リアルな疑問について
Kanさんと一緒に考えます!
Kanさんインタビュー後編を読む
「人を守るためにも。
絶対にやってはいけない
“アウティング”」
Interview & Text:Manaho Yamamoto