自分の思いや意見があっても人に伝えることは難しい。実は多い「自分の思いを言葉にすることが苦手」という声。今回は、テレビや配信番組、YouTubeなど、数多くのメディアに出演し、あらゆる人に分かりやすい言葉で新たな視点の気づきを与えてくれる、慶應義塾大学特任准教授の若新雄純さんをゲストにお招きして、ViViモデルの藤井サチと一緒に『言語化』について対談していきます!


相手と自分、お互いの思いが伝わったかどうかを確認し合える関係性をつくることはコミュニケーションそのもの。言語化する力を養うということは、コミュニケーション力が上がっていくことに直結しています。
失言を恐れて何も言えなくなる社会よりも、お互いが間違いをフォローし合える社会の方がずっといい! 今回は、言語化することの第一歩であり核となる、「間違ってもいいから言ってみる」ということについてを深掘りしていきます。


難しく考えなくていい。
言語化の1stステップは、トライ&エラー
若新雄純(以下、若新):コミュニケーションしていく中で、もっと上のステップに進みたい、もっと詳細なイメージを共有したいと思うのであれば、「ヤバいね」で終わらせるのではなく、「私が言いたいことは“ヤバい”とはちょっと違うのかも」と踏み込んで他の言い方を考えることが必要です。
例えば、それが“モヤる”、“ウズウズする”とかでもいいんです。“ヤバ”よりも“ウズ”の方が近いなとか、より正確だなと思う共通の言語を探していけばいいんじゃないですかね。面倒くさいけど、「この意味、伝わった?」と相手に確認を取って進めていく感じ。
藤井サチ(以下、サチ):自分の気持ちを細分化していくってことですかね? ヤバいには色んな意味が含まれるけど、「これはモヤモヤの気持ちに近いのかも」と気づいていくことなのか。
若新:そうですね!
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正しい言葉選びの前に、伝わる共通言語を見つけよう!
若新:自分の気持ちに気づいたり、相手にちゃんと伝わったかの確認をすることで言語化できているのかなと。正しいとか相応しい言葉を探すということではなくて、擬音でもなんでもいいから、人に伝わるということが一番大切だと思います。
サチ:難しい言葉にしなくても、簡単なフレーズでもいいってことですね。
若新:あとは、ことわざも世界中で使われている表現の一つですよね。例えば、「この仕事始めて一年経つけどなかなか上手くいかないな」という話の流れで、相手から「“石の上にも三年”だよ」と返されたら、辛い状況でももうちょっと耐えなきゃってことか……と会話としてしっくりきますよね。決して今から石の上に三年座れという意味じゃないわけで。
サチ:会話を円滑に進めるには、やっぱりそういう知識も大切なのか……。
若新:そう、知識も必要です! ことわざの意味を知らないと、何言ってんだろう?ってなっちゃうじゃないですか。相手と同じイメージを持つためには、言葉の知識と、それがどう使われてきたかという背景を学んでいくことも大切なことです。でも、とにかく一番大事なのは、誰かとやりとりをする中で、「これは伝わった/伝わってない?」と確認し合うこと。

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“面倒な人”とおしゃべりする”ことで
自然と知識が培われる
サチ:若新さんも、そうやって知識を培っていったんですか?
若新:そうですね。僕の場合は、辞書を調べるような勉強というよりは、面倒くさい人と色々喋ることで培われたと思います(笑)。言いたいことが伝わらない、相手の言っていることが分からない、そういう人と喋ることでお互い何を話しているのかを紐解いていく。その過程で「こういう表現方法があるのか」っていうのを見つけられる。それが、言語化するっていう営みなんだなと。
人はそう簡単には分かり合えないし、ズレがある。だけど、お互い言いたいことを擦り合わせようとしている過程が僕にとっては面白いんですよ。
サチ:まさにトライ&エラーなんですね! 「どうせ伝わらないだろうな」と思うと、言葉にするのが面倒になってしまって、そこでコミュニケーションがストップしてしまったり、その人との関係が疎遠になってしまったりしちゃうけど、まずは伝えてみる。そしてそれが伝わらないのであれば違う言い方を考える。そうやって対話しながら擦り合わせていくことが、言語化の醍醐味なんですね。
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「彼氏/彼女はいるの?」という質問の根絶より、失言の言い直しやフォローができる社会へ
サチ:最近、その質問自体がどうなの?ということを以前よりも考えるようになったし、傷つけない表現を選ぼうという流れに変わってきた印象があります。
私自身も日常生活で人と話す時に、「彼氏/彼女」とは言わず「パートナー」という言い方にしたり、性的指向を無意識に決めつけた質問には気を配るようになったり、意識が変わってきていることを実感しています。
若新:僕は、人間である限り無意識の刷り込みによる言葉ってなくならないと思います。誰かとの会話の流れでお互いの恋愛の話になった時、サチさんのようにとっさに「パートナーはいるの?」なんていう聞き方ができればいいけど、それができずに「彼氏はいるの?」と聞く人もいます。無意識の刷り込みや偏見なしで完全にフラットにコミュニケーションを取るのって不可能だと思うんです。
それよりも、失礼があったことを素直に相手に謝れたり、相手側も「実は私は女性だけど女性が好きなんだ」と堂々と言うことができたり、なにか失言があればそれを言い直せる社会にしていく方が現実的なのではないでしょうか。
サチ:人に対して思いやりを持って言葉を選ぶことは続けていきますが、もし失言してしまっても、素直に謝ったうえで言い直しをさせてもらえると思うと確かに心が楽になりますね。

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ネット上ではできない
真のコミュニケーションとは?
若新:最初から間違えないコミュニケーションなんて、この世界には存在しないんです。僕らは間違えることがあるし、時代遅れの言葉を使ってしまうし、相手を不快にさせてしまうことも必ずあります。だからその間違いを指摘されたことに対して怒らず、自分の非を認めて、フォローや修正を直接できるようになることこそがコミュニケーションの基本なんだと思います。
サチ:そうですね。自分の失言に後から気づいてハッとすることもあるので、お互い様と思って、意見を言い合える関係をつくることって大事ですね。
若新:そうそう。だけど、そういうフォローし合えるコミュニケーションって、ネットの掲示板ではなかなかできないんですよ。だから、直接会ったり、電話したりできる関係性が大事なんです。
サチ:本当ですね!
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「他人モテ」から「自分モテ」へ!
メディアが言葉をシフトしたワケ
サチ:あとは、メディアの表現も変わってきていて、アップデートされた価値観の言葉を使ってくれるのは、私としては良いことだと思っています。雑誌でも他人目線からの“モテ服”ではなく、自分目線の“自分モテ服”という表現にしていますし。そういう変化についてはどう思われますか?
若新:雑誌で他人目線の“モテ服”という言葉を使わなくなって、“自分モテ”という方向になってきたのも社会が変わったからですよね。 僕は学生時代、自己愛活動家だったんですよ。究極、自分にモテればいいと思っていたので……。
サチ:えー素敵!!
若新:素敵って言ってもらえることが、不思議なんですよ(笑)。「それ、誰もカッコいいと思ってないよ」と言われ続け、でも「俺がカッコいいと思ってるからいいんだ」と言い返してきたので。そんな独りよがりと思われていた時代から、鏡を見た時に「こんな自分がいい」って思える方がいいという時代になった。そうやって社会の状況の変化に合わせて言葉の使い方も変えていけばいいんじゃないですかね。

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作り変えていけるコミュニケーション能力こそが「言語化」である
若新:アップデートされていない言葉と出会った時に、「もうその言葉は古い!」、「そんな言葉を使う人とはお付き合いできません!」とシャットアウトしてしまうと、みんなが言葉に対して怯えてしまいます。間違いながら、時には傷付け合いながらもちゃんと向き合って、謝ったり訂正したりしながら、作り変えていけることがコミュニケーション能力であり、本当の意味で言語化するということなんじゃないでしょうか。
サチ:そっか! セルフラブという価値観が、新たな言葉を生み出しているんですね。
若新:僕の若い頃は、セルフラブはただの滑稽で痛々しいことでした。僕は赤い薔薇を咥えて自己陶酔しながら歌うっていうナルシズム活動をしていたのですが、そんな奴は周りに1人もいなかったので……(笑)。
サチ:今っぽいけど、ちょっと早すぎたんですかね(笑)。
次回は、言語化することで生まれるSNSの炎上やアンチ発言について。なぜ、そんなことが起こってしまうのか若新さんと一緒に話していきます。
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【前編】
【後編】
