自分の思いや意見があっても人に伝えることは難しい。実は多い「自分の思いを言葉にすることが苦手」という声。今回は、テレビや配信番組、YouTubeなど、数多くのメディアに出演し、あらゆる人に分かりやすい言葉で新たな視点の気づきを与えてくれる、慶應義塾大学特任准教授の若新雄純さんをゲストにお招きして、ViViモデルの藤井サチと一緒に『言語化』について対談していきます!


いくら自分が正しいと思う意見でも、ネット上では賛否両論分かれるのはなぜなのでしょうか。若新さんらしい分かりやすくユーモアのある喩えを混じえながら楽しくトークしていきます。


炎上やアンチが無くならない理由は、直接会っていないから
藤井サチ(以下、サチ):例えば、“フェミニズム”について意見を述べようとした時、フェミニズム=“過激な”女性尊重主義と思っている人も一部いる気がします。問題の本質を話そうとしても、言葉の定義が刷り合っていない中では、議論がなかなか進まなかったり、無駄な対立が生まれてしまうことも……。対立をしないように話し合うコツはありますか?
若新雄純(以下、若新):直接会って話すことじゃないですかね。
サチ:たしかに……。大体、SNSやネットの掲示板で燃えていますよね。
若新:そもそも“フェミニズム”って性差による誤解や偏見、思いこみがいっぱい入っているテーマなのに、ネット上で会わずにずっとやり取りしていても、それが上手に進むわけないですよ!
サチ:うんうん。直接会って、相手の温度感を見ながら話したいテーマですもんね。
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SNS上でのやりとりは、村の黒板に書き合っているようなもの
若新:例えば、田舎の村にサチさんのような大都会で育った若い人が移住したとしましょう。サチさんはそんなつもりがなくても、村の人たちは都会出身のサチさんに見下されていると思うかもしれません。そしてサチさんがゴミの出し方を間違えようものなら、村人からは不満が出てきます。もし、そんな場面になった時に、村の公民館の黒板にサチさんと村人たちが意見を書き合ってもしょうがないですよね? しきたりや文化の圧倒的な違いがある中ですれ違うのは当然。だけど、その知識や意見の擦り合わせには話し合いが必要です。Twitter(現X)でやっているようなことって、まさに村の黒板に書き込んでいるようなものなんです。
サチ:まさにその通りですね。
若新:「この村のしきたりはこうです」「知りませんでした」「見下しているように見えます」「見下していません」……こんなことを順番に黒板に書き込んでも、分かり合えるわけがない! それよりも、直接会ってお互いの顔を見ながら声を聞いてコミュニケーションをとることの方がよっぽど価値観の違いに気づくことができるはずです。 その人の生い立ちや文化の背景を知らないと分からないことだって沢山ありますよね。それを黒板につらつらと書いたってキリがない。そもそも読みたくならない。
よくTwitter(現X)でも、「きっちり説明します」と投稿を何分割にも分けて長い文章を書き込んでいる人を見かけますが、その説明によって読み手と分かり合えるのかというと、そうでもない気がします。いくら理路整然(りろせいぜん:物事の筋道がきちんと通った様子のこと)と正しいことを書いても伝わらないことがあるということです。そもそも受け取り手とどんな考え方のズレがあるのかを知らないと、その正しい説明も意味がないんです。
サチ:お互い“正しい”と思うことのズレがあるのに、直接会わずにネット上で言い合っていてもしょうがないですもんね。本当に深く話したいことや理解したいことは直接会って話すべきだと思いました。

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台風のようなネット上でのコミュニケーションだけでなく、現実世界で晴れと雨の日をつくってくれる人を見つけて
サチ:私は最近、コメンテーターのお仕事も始めて、テレビで自分の意見を言うようになりました。次のステップは、SNSで社会問題に対して自分の意見を発信することかなと思っています。ただ正直、自分の意見をSNSで発信することがすごく怖いです。何か間違った発言をしたら、炎上が起こったりアンチが増えてしまったりするのではないか。発言することのリスクについて、どう思われますか?
若新:コミュニケーションには絶対にリスクがあるものです。僕らは、小学校に通う前から友達ができると喧嘩したりするじゃないですか? そういった衝突は、人間関係を続ける以上避けられない現象です。
生きていると、晴れや曇り、雨の日を繰り返していますよね。人間関係もそうじゃないですか。ただ、インターネット上のコミュニケーションはずっと台風みたいになっているから、怖いと感じるんだと思います。だったら別の場所で別の人たちと、“晴れ間”を作ればいいんじゃないでしょうか。「あなたの味方だよ」と温かい言葉をかけてくれるような、自分にとっての晴れ間を与えてくれる関係です。
ただ、そこで気をつけたいのは「どうせネットで言ってるんでしょ」と厳しい意見を全て封鎖すると、本当に微妙なコメントや間違ったことを言ってしまった時に気づきにくくなることです。台風のようなネットでのコミュニケーションは別に遮断してもいいけど、自分を絶賛してくれる晴れの人だけではなく、「今日のあの発言は、ちょっと気をつけた方がいいと思うよ」と、時には厳しい意見も言ってくれる雨を降らせてくれるような人も大切です。
サチ:インターネット上ではなく、身近にということですね。
若新:そう、身近に。そういう人を見つけておいて、その上で、インターネットの台風のような関係に入るか入らないかを決める!でいいのかなと思います。
サチ:自分の耳が痛いことも言ってくれる人や居場所になってくれる人が近くに居ることが大事なんですね。
若新:周りに数人でもそういう人たちが居てくれたら、たとえインターネットの台風に巻き込まれてびしょびしょになっても、「あなたのこと、ちゃんと分かっていますよ」と心を乾かしてくれるはずです。そういう存在の人たちが居ないままネットの嵐の世界に突入するのが危険。「俺たちが言っていることは正しいんだ!」と台風の目のように、異常にカンカン照りのような場所もありますしね。
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分かり合えないことを前提に関わり合う
若新:人の気持ちって、分かった気になっていても分かっていないなと思います。例えば、親しい人との会話でも使ったりしますが、「幻滅した」って言葉があるじゃないですか。僕は、“幻滅”って言葉って面白いなと思うんですよ。幻が滅びると書く。つまり元々、“幻”なんですよ。僕らは、在りもしないものを在ると思い込んでいるということですよね。大事なものがなくなったのではなく、幻がなくなっただけなんです。
「分かり合えた」「この人は絶対に裏切らない」と決めつけてしまうから、期待や疑いを持ってしまう。そうではなく、どこまで関係が深まっても、分かり合えないし完全に考えが一致することはないんだと思っていいんじゃないかなと。長年の関係でも、すれ違うこともあるし歪み合うこともある。それを「なんで分かってくれないの!」となるのではなく、「キタキタ〜」と思うぐらいでいいんです(笑)。そして、そのことを決して“村の黒板”に書き合いっこしないことですね!
サチ:言語化するとなると、否定や誤解をされたらどうしようと不安に思ってしまうんですが、そもそも誤解があったり分かり合えていなかったりすることが前提の心持ちでいればいいんですね。
若新:自分も誰かを誤解している可能性は大いにあるので、同じように、自分も人から誤解されているということです。

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言葉の解像度を上げていこう!
若新:「この言い方で伝わりましたか?」「それって本当に言いたい/聞きたいことでしたか?」と確認し合うコミュニケーションがないと、言語化能力は身につかないと思います。僕の知人の言葉を借りるなら、“言葉の解像度を上げよう”ということですね。
サチ:うう。グサっときます。私も言葉の解像度が低いことを聞いちゃうことがあるので。あと、「今、私が言ってることって分かりましたか?」と聞くことって、嫌われちゃうかも……面倒くさいと思われるかも……という思いが芽生えてなかなかできなかったです。
若新:そう、面倒くさいんです。でもそうやって一歩踏み込んだことを言い合える関係を作れる人が、より面白くて新しい表現や言葉を作っているんだと思います。
サチ:“言語化する”となると、どうしても語彙や知識を増やすことばかりに意識が向きがちですが、自分の中だけで完結するんじゃなく、人に伝えてどういう反応が返ってくるか、そのやりとりの中で形成されていくんですね。すごくしっくりきたし、新しい発見でした!
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言語化できるようになるとどう変わっていく?
若新:言語化できる力を身につければ良くなる、社会が平和になる、とかではないんじゃないかなと思います。人間として生きている以上は、思いが伝わらないことは永遠に悩む課題だと思います。
家族ですら歪み合ったりしますよね。親友や恋人だからってずっと分かり合えることもない。そういう違いがあることを受け入れて生きる方が大事なんだと思うんです。
人間社会をスムーズにする技術を早く発明しようじゃなくて、根気強くずっと向き合い続けるしかない。なかなか分かり合えない感覚をお互いが持っていて、あーでもない、こーでもないと言い合う中で、“ヤバい”みたいな言葉が生まれてくるわけです。そういう言葉が生まれることで、部分的にでも「分かり合えちゃったかも!」と思う瞬間が嬉しいのかもしれないですね。
サチ:若新さんのお話を聞いて、自分の思いを簡単な言葉でもいいから直接伝えてみようと思いました。言語化するということのハードルが下がった気がします。大変、勉強になるお話を本当にありがとうございました。ViViのYouTubeでは、今回のように学びを深める企画は初めての試みでした。ぜひ、またViViに出ていただけたら嬉しいです!

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