’00年代に若い女の子で読んだことのないコはいない! とまで言われた、伝説のケータイ小説『Deep Love』。アラサー女子なら身もだえしちゃうくらい懐かしいワードのはず! 当時ベールに包まれていた作者・Yoshiさんを、平成最後の年に、ViViが初のロングインタビューに挑戦しました。明かされる話とは!?
アラサー女子のノスタルジーを駆り立てるケータイ小説『Deep Love』とは?
『Deep Love』というケータイ小説を知っていますか?
2000年、ガラケーにまだパケット定額制もなかった頃、当時の女子高生たちが熱狂的に画面を見つめ、読みふけっていたケータイ小説で、日本初にして最強のケータイ小説、と言っても過言ではないこの作品。
このタイトルを聞いて懐かしさに胸を締め付けられる読者も多いのでは?
援助交際を繰り返す17歳の女子高生・アユを主人公に、売春、レイプ、薬物、自殺など、若者の過激すぎる暗部を描いたこの作品は、書籍化、漫画化、映画化、ドラマ化など、さまざまなかたちで’00年代の日本において社会現象に。
そんな大作を生み出したのは、当時から謎に包まれていたYoshiという人物。今回、ケータイコミック『Deep Love Again』の配信にあたって、Yoshiにインタビューを敢行。『Deep Love』で伝えたかったこと、起業のきっかけや破産、そしてガラケーカルチャーが衰退してから今までなにをしていたのかなどじっくり訊いた。

当時のガラパゴス携帯(通称ガラケーと呼ばれているもの)
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予備校講師から一転。破産も経て起業した理由って?
Yoshi:予備校で数学の講師として十数年働いていたのですが、やりきった感があったので、起業しようと思ったのが始まりです。当時、たまたまiモードの全盛期でサイトが爆発的に増えた頃で。その時は一人1台端末を持つなんてのは非常に珍しかったので、「これはテレビを超えるんじゃないか?」ってビジネスチャンスを感じて、30歳くらいの時にザブンという会社を作りました。

—じゃあサラリーマン時代に稼いだお金を起業にあてて一から始められた、という感じだったのでしょうか?
Yoshi:いやいや、極貧中の極貧で始めました。実は起業の前に自己破産したんですよ。予備校講師時代にマンションを買ったんですけど、バブルが弾けて1/10の価値になってしまって。売るに売れないし、破産するしかなくて。その時に残った10万円で起業しました。デジカメを5万で買って、チラシを3万で作って、2万を交通費にして……そんな状態で始めた会社だったんですけど、当時の若い人たちの夢をかなえるホームページを作りたかったんです。
—ええ!? それは大変な時に起業されたんですね……。それでなぜ小説というかたちをとったのでしょう?
Yoshi:若い人の夢をかなえるってなったら、まずは自分が夢をかなえる姿を見せないと説得力がないなと思って。継続的にできるエンターテイメント性のあることをしたいと思って、たどりついたのが小説です。もともと理系だし、他の人に書いてもらえばいいやくらいに思っていたんですけど、書いてくれる人がいなかったので、仕方なく自分で書き始めました(笑)。それが32~33歳くらいかな。
—じゃあ「小説を書き始めるぞ!」って始めたわけではなかったんですね。
Yoshi:そうそう。だからプロットも5分くらい考えただけ。当時は自分でチラシを作って渋谷のセンター街で配ってホームページの宣伝をしていたんですけど、ネットってスピードが速いし、今日チラシを受け取った人が、明日も見てくれる確証はない。だから急いで小説の冒頭を書いたんです。それを一緒に起業した人に見せたら「これは会社が潰れるか、大爆発するかのどちらかだね」ってゲラゲラ笑われたんですよ。それがザブンとしての最初のコンテンツで、『Deep Love』の第1話でした。
—第1部の『アユの物語』ですね。援助交際のシーンから始まったり、薬物漬けの男の子が出てきたり、大切な人が死んだりと、かなり衝撃的な内容でした。こういったアイデアはどこから見つけたんですか?
Yoshi:最初の頃は、本当に直感的ですね。ただ、時代を切り取ることが大事だと思って。当時は援助交際というものがひとつの社会現象になっていたんです。僕の場合、予備校の生徒でそういうことをしている子がいたので、女子高生も援助交際も非常に身近だった。

—実際の読者は女子高生が多かったんですか?
Yoshi:そうですね。でも、60歳くらいの人も読んでくれていたり、1日10万PVくらいあって、ちゃんと広がった感覚はありました。今考えると、iモードやインターネットという最先端のものと、自分が予備校講師として人になにかを伝えるプロであったことがマッチしたんでしょうね。でも、当時は無料で配信していたので、会社として食えないなあという話になってきて(笑)。そこで、これを出版してミリオンセラーにします、映画化もドラマ化もしますっていう読者と約束をして、それをひとつひとつかなえていったんです。
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読者の親から「娘にエロ本を送りつけやがって!」と激怒の電話も
—書籍化の際は、最初は自費出版だったそうですが、なぜ自費出版を選んだのですか?
Yoshi:いやいや、当時大手の印刷会社に小説を持ち込んだら、「流通や出版社が認めていないからできない」と言われて(笑)。一度出版を諦めたんですけど、こうなったら自分で通販するしかないと思って10万部くらい通販しました。その時は読者とダイレクトに繋がっていたからおもしろかったですよ。「自衛隊なんとか駐屯基地50冊」とか注文が入っていて(笑)。当時はケータイでものを売るなんてことは誰もやっていなかったから大変でした。
—自費出版で、しかもガラケーの通販で10万部ってすごい部数ですね……。そのあとスターツ出版から『Deep Love完全版 第一部 アユの物語』が発売され、3ヵ月で10万部という驚異的な実績がありますが、なぜ書籍化にこだわったのですか?
Yoshi:『Deep Love』を全部読むとパケ代が1万円くらいになっちゃうから、読者からも「書籍化してほしい」という声が多かったんです。僕たちもこのコンテンツをお金にしたかったから書籍化はWin-Winだった。ネット配信して課金っていう方法もやったんですけど、今みたいな課金システムがなかったから、とりあえずタダで読ませて、「ここに1000円振り込んでください」って口座情報を書いておきました。
9割くらいの人がちゃんと振り込んでくれて、しかも10万円振り込んでくれる人もいたんですよ。「絶対ケタ間違ってるだろ」と思って電話したんですけど、「私にとって10万の価値があったからそれでいいです」って言ってくれたりね。

小説版の『Deep Love』
—それだけ与えたものが大きかったんですね。
Yoshi:書籍化して最終的に何百万部っていう数字が出た時に、日本中の人が読んでくれているんだなっていう実感があって新たな喜びが生まれました。本を出した時に、ある読者のお父さんから電話がかかってきたんです。「エロ本を娘に送りつけやがって!」ってめちゃくちゃ怒っていて。それで「お父さん読みましたか?」って聞いたら「読むわけねえだろ!」と。それで一度読んでくれと頼みました。「読んで本当にだめならすぐに返金します」という話を小一時間して。
それで次の日にまた電話がかかってきたんです。「ごめんなさい。僕の分も1冊ください」って(笑)。冒頭の援助交際のシーンを最初に見たらすごく好奇心がくすぐられるかもしれないし、お父さんみたいに「なんだこれは」って思う人も多かったと思います。でも、あとから読んだら、単なる好奇心や嫌悪感では片付けられない、とても心に刺さるシーンとして見えるんですよね。このお父さんの反応を感じて、自分はちゃんとプロとして人になにかを伝える仕事ができたなと思いました。
—すごくいい話。今では考えられないような読者との近さです。
Yoshi:読者との距離は本当に近かったですね。映画化の時は今でいうクラウドファンディング的なこともやっていて、読者に1万円ずつ出してもらってエンドロールに名前をクレジットして、キャストも読者の中からオーディションで選びました。そしたら3000万円集まって。そうやって夢をかなえられることを読者に見せたかった。自分は作家としては素人ですが、色々な方法で伝えるということでは予備校時代からプロだと思っています。
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身体はお金で売るものじゃない」と言っても伝わらないならどう伝えるか?
—Yoshiさんが伝えたかったことってなんですか?
Yoshi:当時はそこまで深く触れていませんでしたが、「生きる意味」です。『Deep Love』から18年経ちますが、当時と今では、世の中の価値観の動き方がとても似ていると思うんです。お金こそが正義だ、みたいな考え方が主流で、そのお金に込められている気持ちや思いが薄れてきているような雰囲気とかね。
当時は、そういう時代の価値観が背景となって、援助交際が生まれたと思うんです。要するに、お金が一番であって、自分を大切にしようという考えがなくなっていく。援助交際が単なるバイトのひとつになっていったんです。今や、パパ活も含めて完全にバイトのようなかたちになっていますよね。

—たしかにパパ活や、広く言えばギャラ飲みなんかも、普通にやっている子が増えましたね。
Yoshi:『Deep Love』の冒頭を見ると、援助交際を賞賛して正当化しているように思われてしまうことが多くて、たくさん苦情が来ていたんです。でも「身体はお金で売るものじゃないよ」みたいな真っ当なことを言っても、当事者には全然伝わらないですよね。
—たしかに何事も「ダメ!」って言われると反発したくなりますよね。
Yoshi:押しつけても反発するのは目に見えてますよね。自分も含めて生きる意味や正しさなんて誰も知らないけど、子どもから見ると、大人はそれを知っていて、私たちにそれを押しつけてきてる!って感じると思うんです。だから、まずは援助交際という事実やそれに対してのいろんな考えがあることもわかっているからねって赤裸々に見せないと、そのあとの意見なんて特に当事者たちには聞いてもらえないと思って。
だから、伝えるより前に、伝わるように考えました。それで卑猥なシーンからスタートさせたし、アユをすごく極端な人物として描きました。最初は普通に見ていても、読んでいくと「アユ、もうやめてよ!」って思い始める人たちがいて。その中で、「あ、自分はこういうことを悪いと思ってるんだ」みたいな気づきを感じてほしかったんです。
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—興味本位で読み始めたり、嫌悪感を持っていたとしても、アユの人生について善とも悪ともいえない、すごく複雑な読後感を持った人は多かったと思います。
Yoshi:そう、「こういう女の子がいたよ。それであなたはどうするの? 自分で考えてね」っていう問いかけを『Deep Love』でしたかった。完全な正義も、完全な悪もない。人間一人とっても、その中に正義と悪が共存していて、どちらが表に出てくるかってだけの話なんですよ。アユは男の子を助けるために自ら身体を売ることを再開するんですけど、それって正義なの?悪なの?って思いますよね。正義と悪を分けて書くのは簡単だけど、実際の世の中はそれがぐっちゃぐちゃになっているから、そこを考えてほしかったんです。
『Deep Love』には幻のエピソードがある? PV数が悪ければ書き直して再アップ
—確かに『Deep Love』を読んでいたらなにが善でなにが悪かっていやでも考えさせられるくらい、いろいろな出来事が巻き起こっていました。援助交際の話があったかと思えば、いきなりおばあちゃんの戦争体験の話が入ってきたり、本当に展開が急でしたよね。
Yoshi:おばあちゃんの戦争の話をアップする時は勝負でしたね。援助交際のシーンのあとに戦争の話が始まるって、意味わかんないじゃないですか(笑)。だから、苦情が大量に来たり、アクセスが減るのかなと思っていたんです。でも、戦争の話を入れたら、アクセスが3倍になりました。そこで、読者を自分の世界に連れて来ることができた、伝わるようにはできた、って確信しました。

—アクセス3倍! 本当に次の展開が読めなくて「ジェットコースターみたい」って評されていたりしましたけど、読んでるうちに自然と自分の人生について考えさせられた人が多かったんでしょうね。
Yoshi:まさにそれをしたかったんですよ。そのためにはエンターテイメント的な面白さも追求しなきゃいけないってもちろん思っていました。だから、アクセスログをすごく研究していたんです。第1話が10万PV、第2話に8万PVだったんですけど、2万人減ってしまった。PV数が減ったのがおもしろくないなと思って、全部書き直しました。アクセス数に応じて書き直しを入れていたから、『Deep Love』は最初に書いた原稿なんてないんです(笑)。
—え!? じゃあアップした直後にしか読めなかった幻の話とかもあったり……?
Yoshi:そうです、そうです。次アクセスしたらもう違う原稿に書き換えられてる、みたいな(笑)。一日中パソコンの前に座ってアクセスログを見て、前回のPV数を超えない限りはずっと書き直してました。アクセス数が減ったってことは、伝わっていないってことで、なんで減った2万人には伝わらなかったのかっていうのが気になるから、語尾をちょっと変えてみたり試行錯誤していましたね。
通常の本だと、本を出版してやっと読者の反応がわかるから、書き直せないですよね。でもネットは書き直せるのでその利点を最大限使いました。読みたいものを読ませてほしいっていうのは読者としてもあると思うので、どんなに伝えたいことがあっても、エンターテイメント性がないとだめだっただろうなと思います。
後編ではYoshiが活動を一旦休止してからの空白の期間について、そしてYoshiが感じる現代の若者への危機感について詳しく訊いていきます!