色や光に対する美的センスが唯一無二の監督・蜷川実花が小栗さんへ直々にオファーをし、タッグを組んだ映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』が、2019年9月13日(金)に全国で公開される。危うい色男と彼をめぐる3人の女性がたどり着いた結末とは?
女ではなく人間を知りたかった、時代が生んだ大スター。そんな太宰を演じてみました
「太宰自身すごく手が綺麗と言われている人だったらしくて、手の見せ方をどうするかは意識して演じていました」
女性を翻弄する危ない色男、太宰治という一人の天才作家と3人の女性の生きざまを描いた『人間失格 太宰治と3人の女たち』。誰もがその名を耳にしたことがある人物だけに注目度の高い作品となる。その主演をつとめるのは俳優、小栗旬さん。太宰を演じることでいつもとは違う感情が芽生えたとか。
「この作品に限らず、違う人物を作りだすのは、楽しいこともあれば辛いこともあり、すべての感情が入り混じるんです。そのなかでも、今回はとくに虚無みたいなことを感じる瞬間が多かった。
太宰は晩年、『侘しい』という言葉を使うことが多かったみたいなのですが、彼はいろんな人と付き合い過ごした時間のなかで、人が人を100%理解することは難しいということに気づく。最期はすごく虚しさを感じていたと思うんです。それを感じる瞬間が多かったですね」
色男太宰と3人の女性の関係が見どころである今回の作品。彼にとって“女”とはどういう存在だったのだろう。
「彼は作品のために女を取り替えていると言われたりもしていましたが、純粋に恋をした瞬間もあったと思うし、その一方で、作品に恋をしたのもある。どっちの感情も持ち合わせていて、つねにその矛盾のなかにいる人だったのかなと。誰が一番幸せなのかと考えれば、いろいろ知ったうえでは静子さんが一番幸せだったんじゃないかなと思うところはあります。
ただそれはすごく悲しい幸せ。そこへいくと、添い遂げたんだと思っている富栄さんが幸せだったのかもしれないし、もう本当のところは誰もわからない。ただ、結局、太宰が本当に愛していたのは美知子さんじゃないのかなと。一つの仮説ではありますが、美知子さんに褒められたい気持ちはあったと思います。
そして、彼が最終的にたどりつく人間愛が美知子さんにはあって、恋だとか愛だとかそういうことではなく、人として彼女を愛したのではないかなって。だから最後のシーンは本当の気持ちだったのだと信じたい顧望はあります。まあ美知子さんにしたらそんなのどうでもいいんだと思いますけどね」
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ラストシーンでは減量をし、心身共にハードな撮影が続いたという。そんな中での息抜きはトランプ!?
「スタジオでの撮影の待ち時間ではトランプやUNOをやっていました。最初は成田(凌)くんが持ってきたつまらないスゴロクに始まり(笑)、途中からトランプの『スピード』で盛り上がりましたね。結果、沢尻(エリカ)さんが、ものすごく負けず嫌いってことがわかりました(笑)。
今回の撮影ではしんどい場面もありましたが、(藤原)竜也との撮影は楽しかったです。冒頭はじめて登場するシーンは、『藤原竜也劇場が始まった!』と皆に思わせるし、出演は2シーンなのに、あんなに存在感を出せる人ってなかなかいない。あいつはやっぱり面白いですね」
最後に小栗さんにとって太宰治とはどういう人物なのかを聞いてみた。
「この人は人を傷つけまくってその上で自分は作品を発表している。今の時代には生まれないだろうし、もし生まれてもこの才能にたどり着く前に叩き潰されちゃいます。本当、時代が生んだスターですよね。ただ、彼は女性を翻弄したのではなく、人間を知りたかったのかなとは思います。
彼はすごく人間が好きだし、とてもユーモアがある。人に近づけば近づくほど自分もひっくるめて人間に幻滅するというか。本能的な行動をいろいろしてみた結果、彼は傷ついて、内臓を引き摺り出すようなところにたどり着いて書いたのが『人間失格』だったんですよね。そこには一抹の悲しさというか、なんか、一生人間ってわからないけど愚かだよね、と。それを身をもって演じてみました」

スーツ¥82000、ネクタイ¥6900(Cento trenta)、シャツ¥24000(Fralbo)/Cento trenta他/スタイリスト私物

『人間失格 太宰治と3人の女たち』
奔放な私生活で文壇から煙たがられながらも、ベストセラーを連発した天才作家・太宰治。身重の妻・美知子とふたりの子どもがいながら、恋の噂が絶えず自殺未遂を繰り返すという破天荒な人生を送っている。作家志望の静子と、未亡人の富栄。彼をめぐる“3人の女との恋と愛”の物語が幕をあける。9月13日(金)より、全国ロードショー!
©2019『人間失格』製作委員会
撮影/田中雅也 ヘア&メイク/KIMURA CHIKA(tsujimana gement) スタイリスト/臼井 崇(THYMON Inc.) 構成・文/池城仁来