忖度、静観、自粛……。中途半端な美意識がアダとなる時代に、息苦しさを感じている女子たちへ。映画『宮本から君へ』は、骨太な信念を持つ名優コンビが贈る応援歌だ。
時代の変わり目に、強烈なメッセージを残したかった
職場の上司に大声で正論をぶちまけたり、取引先に出向いて土下座しながら要望を通そうとする。『宮本から君へ』の主人公・宮本浩は、かなり“クレイジー”な熱血営業マン。2018年4月から放送されたドラマ版から、池松壮亮さんが並々ならぬ情熱を注いで体現しているキャラクターだ。
池松さん「不器用で暑苦しい理想主義者として捉えると、もし近くにいたら鬱陶しい男ですよね。でも、22歳で原作漫画に出会ってから、僕にとって宮本はヒーローでした。人としてのエネルギーや、生き様をものすごく尊敬していたんです。映画でも、時代の変わり目に強烈なメッセージを残すべく、身も心も捧げたつもりです。」
作品の中心に立つ主演俳優の心意気は、周囲に伝染する。数多くの映画で難役を経験してきた蒼井優さんですら、「3日でヘトヘト」になるほど熱量が必要だった。
蒼井さん「ヒロインの中野靖子として、全力で宮本と感情をぶつけ合うシーンの連続だったので。こんなに早く疲弊した現場は初めてですね。キャストやスタッフの方々とお互いに叱咤激励しながら、なんとかクランクアップすることが出来ました。」

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役作りで前歯を抜こうとした時、蒼井優がとめてくれた(笑)
2018年公開の『斬、』でも共演するなど、キャリアを通して接点が多かった2人のコンビネーションは抜群。出身地も同じで、役者として認め合っている間柄だ。
池松さん「傲慢かもしれないけど、蒼井さんのことは同志だと思っています。同じ時代に、妥協せずに戦っている存在だから。共演していない作品でも、蒼井さんが出ている映画を見るとモチベーションが上がるんです。『よし、次は私が行きます』って。今回のような手強い作品に挑むうえで、こんなにも心強いパートナーはいません。」
蒼井さん「何かと規制が厳しい今でも、より良いものを作るための戦いから逃げたくないとか。私も、撮影現場で自分と同じような姿勢で作品と向き合っている池松くんを見ると、ほっとする部分があります。年下ですが、手放しで尊敬している俳優さんです。ただ、仕事にのめり込む度合いが自分と似ているので、心配もしているのですが……。」
池松さん「撮影中に声を枯らした僕に喉の病院を紹介してくれたこともありましたよね。役作りで前歯を抜こうか迷っていたときも、蒼井さんは冷静に止めてくれました(笑)」
蒼井さん「『歯は大事よ』って。母親みたいなことしか言ってないけど(笑)」

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誰かに共感してもらわなきゃ維持できないような信念は持つな
劇中では、愛する人のために“絶対に勝たなきゃいけないケンカ”に挑む宮本の奮闘が描かれている。たとえ無様でも、痛々しくても、信念を持って愚直に突き進む姿は美しくもある。そして、“エモい”。
池松さん「原作が連載されていた’90年代前半に、宮本は男性誌のアンケートで『嫌いな男性』の1位に選ばれたことがあるそうです。暑苦しいし、鼻水を垂らしながら泣くし、僕だってイライラすることも。ただ、伝説の漫画として語り継がれてきたように、誰かの人生を変えるパワーがある作品なんですよね。女子目線で宮本がどう見えるかは、僕には分からないのですが。」
蒼井さん「私は好きですけどね。ハキハキ喋らない男子が多い時代だからこそ、宮本がかっこよく見えるのではないでしょうか。自分の内側にある感情や思考を、恐れずに表に出す。そんな男が、覚悟を持って愛情を伝えるシーンは必見ですよ。あれは、本当にかっこよかったな〜。」
池松さん「いやいや、靖子のリアクションもすごく男前でしたよ(笑)」
会社や学校で直面している課題や人間関係の悩みなど、乗り越えたい壁がある女子は宮本から現状突破力を学べるかも!?
池松さん「何らかの問題に直面したり、誰かと対峙したときに、自分の方が絶対にリスクを取る。実際に宮本のような選択ができる大人が集まっていたからこそ、この映画は無事に公開まで辿り着いたのではないかと。試練に立ち向かおうとしている方々に勇気を与えることができたら嬉しいです。」
蒼井さん「人生はいろんなことが起きるし、ブレずに生きるのは難しいけれど、『誰かに共感してもらわなきゃ維持できないような信念は持つな』。この映画には、そんなメッセージも込められていると思います。」
池松さん「甘えるなってことですね。さすがですね。蒼井さんはコメントも男前(笑)」

蒼井さん・ドレス¥19000/スピック&スパン ルミネ新宿店(クーパー ストリート)、ブーツ¥19000(マリアン)/スピック&スパン ルミネ新宿店 池松さん分/すべて本人私物
蒼井優/1985年8月17日生まれ。福岡県出身。主な出演作品は『フラガール』、第41回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した『彼女がその名を知らない鳥たち』など。公開待機作に『ロマンスドール』がある。

©2019「宮本から君へ」製作委員会
Photos:Koudai Ikemitsu(TRON) Stylist:Tabata Arisa Hair&Make-up:Akamatsu Eri(ESPER) Text:Satoshi Asahara