周りの視線を気にせず媚びず、いつだって仏頂面で無愛想。辛辣な言葉でひょうひょうと毒を吐いてしまうがゆえに“腐り芸人”と評されることも。ゴーイングマイウェイなスタイルを貫くハライチの岩井勇気さん。そんな彼がエッセイ集『僕の人生には事件が起きない』を発表。増刷に増刷を重ねるヒット作に。相方の澤部さんにスポットが当たることが多い“じゃないほう芸人”だった、岩井さんに今注目が集まっています。
「これ、誰が読むんだろう」と思っていましたよ、マジで
今作は『小説新潮』に連載していたエッセイを一冊にまとめたものなんですけど。連載の話を持ちかけられたときも、本になると聞いたときも、「誰が読むんだろう」って思いましたよね、マジで。
テレビでは「腐っている」とか「ひねくれている」とかフィーチャーされがちだけど、その要素を感じさせるパッケージではないし。タイトルも『ひねくれの日々』とかではないし。
『僕の人生には事件が起きない』って、そこからしてもうつまらなそうじゃないですか(笑)。なので、書籍化するときも「いっぱい売ろう」なんて考えてなくて。とりあえず、自分用に一冊あればいいかなと、読みたい人がいたらそれを貸せばいいかなと。本当に一冊だけで良かったんですけどね(笑)。

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芸人仲間は「売れないでくれ!」と思っているんじゃないですかね(笑)
芸人で「おめでとう!」なんて思ってくれている人はほとんどいないんじゃないですか。むしろ「売れないでくれ!」と願っている芸人が大多数だと、僕は勝手にそう思っています(笑)。
文中に何度か登場している母親は15冊ほど購入して親戚に配ったみたいですね。本来、僕がやらなきゃいけないんでしょうけど……新潮社の方が全然、本をくれないんで(笑)。
50冊くらいくれるのかと思いきや、たった10冊ですよ!?
その貴重な10冊は『久保みねヒャダこじらせナイト』の出演時、ヒャダインさん、久保ミツロウさん、能町みね子さんに。あと、オードリーのお二人と、『東京喰種トーキョーグール』の石田スイ先生、あとは声優の方々に渡しました。主に気持ちよく宣伝してくれそうで、ファンの方も買ってくれそうな人達を厳選して。
相方の澤部にはあげてないです。澤部が読もうが読まないがどうでもいい。「面白かった」と言われるのも嫌ですしね。「ああ、こいつのセンスに刺さってしまったのか」と(笑)。
どんなに小さな出来事でも面白ければいい
テレビやバラエティ番組には「大きな出来事じゃないと話しちゃいけない」という空気があるけど、エッセイには書ける。
どんなに小さな出来事でも、面白ければいい。
それが文章の良いところであり、テレビとの違いですかね。なので、エッセイのネタに困ることはありませんでした。
まあ、逆にテレビで話せるエピソードは一切増えませんでしたけど(笑)。
バラエティ番組の打ち合わせでも相変わらず「何かエピソードないですか」とネタを絞り出そうとするスタッフに「ない」を繰り返す毎日です。結局ね、絞り出したエピソードとか面白くないですからね。ただ事件に遭遇しただけで、全く面白い話に消化できていないのに、番組に面白い感じにしてもらっている、そういう芸人いっぱいいますからね(笑)。
例えば、みんなで2〜3日合宿に行って、帰ってきてから一斉にそれについてのエッセイを書く。いつか、そんなレースがやりたいですね。そうすれば、つまらないヤツが浮き彫りになりますから(笑)。

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ーー組み立て式の棚の足りない部品に苛立ち、初めての一人暮らしをした家の庭に生えた雑草と戦い、通販でたまった段ボールを切り刻む……。
『僕の人生には事件が起きない』に描かれているのは日常の些細な出来事。
だがしかし、そんな“ありふれた小さな出来事”も岩井さんならではの視点が加わるとあっという間に“面白い出来事”に変わってしまう。
グレーな日常を鮮やかに彩る天才・岩井勇気に読者のお悩みをぶつけてみた。
岩井勇気にお悩み相談
「毎日が楽しくなる」テクニック
お悩み❶
家を出て、職場に行って、帰るだけ。同じことの繰り返しで毎日がつまらない(21歳・会社員)

「面白くない」毎日も俯瞰で見ると「面白い」
僕、たまに自分が結婚したときのことを想像するんですよ。家には奥さんと子供が二人いて、朝は「行ってきます」と家を出て、仕事を終えて「ただいま」と帰って、風呂に入って、メシ食って、子供を寝かしつけて。翌朝はまた「いってきます」と家を出る……。
多分、四日目くらいの夕飯を食っているときに思う気がするんですよ。
「何が楽しいんだよ⁉」って(笑)。
でも、そんな自分を俯瞰で見ると「面白いな」とも思うんです。世の中につまらないことは沢山あるけど、そんな状況にいる自分を第三者目線で見ると、意外と滑稽で面白い。視点を変えるというか、俯瞰(ふかん)で物事を見る“神目線”を手に入れるというか、つまりは全て自分次第。
よく「つまらない」と口にする人がいるけど、そういう人に出会うたびに僕は思ってしまいます。「環境がつまらないんじゃなくて、自分がつまらない人間なんじゃないの?」って(笑)。

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お悩み❷
フォロワーの数もコメント数も私より多い、華やかな友達のインスタグラムを眺めては地味な自分を比べて落ち込みます(19歳・大学生)

他人の人生ではなく、自分の人生を生きたほうがいい。
父親がコーチをしていたので、子供の頃から僕はサッカーをやっていたんです。同時に母親の勧めでピアノも習っていて。
サッカーは練習も厳しいし大人数と競い合ってレギュラーを勝ち取らなければいけない。でも、ピアノは毎日練習しなくても男子が弾いているだけで「スゴイ!」になる。
そこで目覚めたんでしょうね。みんながやっていなくても、 羨ましがられるようなジャンルじゃなくても、「競争率が低いほうがいいじゃん」って(笑)。そのせいか、子供の頃から他人と比べたり、周りの目を気にするようなことがほとんどなかった。
そんな僕からすると、この悩みはちょっと不思議。友達のインスタグラムに載っているのは友達の生活だから、違うのがあたりまえだし、比べることが変。他人からの評価で自分の価値を決めてしまうのっておかしいですよね。
インスタをやっている人達ってたいてい、旅行に行っても、写真をとって「いいね!」をもらうところがピークになっていませんか? でも本当のピークは旅行自体にあるべき。「写真撮影に必死で、旅、楽しんでないじゃん」って思います。
人生も同じですよ。大事なのは他人からの「いいね!」でも「他人にうらやましがられること」でもない。
自分がちゃんと楽しむこと。
服もね、自分が好きなものを着ればいいんですよ。「流行だから」じゃなく「いい!」と思ったら買えばいいんですよ。自分のテンションが上がることが何よりも大事。自分の人生の主役は誰でもない、自分自身ですからね。

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お悩み❸
特に報告するような面白いエピソードもないので、友達からの「最近、どう」の一言が怖い! 「つまらない人」と思われるのが怖い!(20歳・大学生)

人生に大きな事件は起きない。たとえ、起きてもロクなことはない。
そもそも、そんなに面白いこと言わなきゃいけないんですかね?(笑)。
というか、「楽しい話題を提供しなければいけない」と思うのは「求められている」と思っているということ。その時点で、だいぶ自己評価が高いですよね。一体、自分に何を期待しているの? ここで、僕はViVi読者の皆さんに声を大にして伝えたい。
「20代、30代、40代になろうが、あなたの未来にドラマティックな事件は起きません!」
この本を読んでいただければ分かる通り、芸能人のはしくれである僕にも事件は起きないんです。
みんな日々の生活や未来への期待が大きいから、いちいちガッカリしちゃうんだと思うんです。
高望みをしては落ち込む、そんな毎日を繰り返して「あ〜つまらない人生だった」と死ぬのか、目の前にある小さな出来事を楽しみながら「人生楽しかった」と生涯を終えるのか、僕だったら後者がいい。
そもそも、事件なんて起きないほうがいい。そのほうが良くないですか? 人に話して面白い事件って、たいていロクなことないですよ?(笑)

Photos: Miku Shioya Interview&Text: Miwa Ishii