2018.10.21

トイアンナが分析。恋空からCoccoまで。’00年代のガラケーカルチャーからみる「病む文化」とは?

2000年代前半。まだiTunesもLINEもInstagramもなく、二つ折りのガラケーを開閉し、8bitの画面を見つめていたあの頃。インターネットには心のダークな部分も受け入れてくれる懐の深さがありました。今回、『Deep Love』の新連載を機に、恋愛や女性のキャリアについてのコラムなど多数の連載を持ち、『モテたいわけではないのだが ガツガツしない男子のための恋愛入門』をはじめ著書も話題のコラムニスト・トイアンナさんに、あの時代特有の空気のひとつだった「病む文化」について考えてもらいました。

悲劇に陶酔していた2000年代


ヨウコソ、アナタハ 0001820 番目 ノ 患者サン。
キリバン踏ンダラ ビビヱス カキコ シテ下サイ。

病室はコチラ →ENTER←

初メテ 手首ヲ切ッタ アノ日ハ快晴ダッタ。

 

こんなウェブサイトを今見たら、誰しもぎょっとするでしょう。けれどこんなページは、実は2000年代には腐るほどありました。

あなたのクラスにいる普通の女の子が、HTMLを駆使してこんなウェブサイトを作っていました。メンヘラ=精神を病んだ女子の存在が、普通にクラスの女子たちのジャンルの一つとして堂々存在する――そんな異常な時代がありました。
 
10代のお姉さんたち、お母さんのiTunesから「浜崎あゆみ」を聴いてみてください。歌詞が暗すぎて驚きません?
 
「楽しい日々が続くと思っていた」
「最期に笑えたなら結末が悲劇でもいい」
「あなたさえいなければ痛みを知らずにすんだ」
 
そんな歌詞が、浜崎あゆみには頻出します。欅坂46や米津玄師よりもっとずっと陶酔しています。あえて悪く言えば「自分をかわいそうに思い込みすぎてイタい」歌たち。それがミリオンヒットを飛ばしていたんだから、当時を生きていた私から見ても「異常」でした。
 
といっても浜崎あゆみを好きだったのは主にクラスのキラキラ女子。陰キャのグループに属した女子は、鬼束ちひろやCoccoを聴いて「手首を何度も切った 温かかった」「こんな場所でどう生きればいい」とさらにエグい陶酔をしていました。

暗いインプットから生まれた00年代ネットの世界

テレビで年中暗い曲を耳にしたら、10代の紡ぐ歌だって暗くなります。前略プロフィール*1、mixi*2、モバゲー*3と当時からSNSはありました。しかしそこに溢れていたのは、ディープな黒歴史。
 

たとえばこんな自己紹介を「フツーの小学生」が書いていました。
 
*性格*
餓鬼。臆病。我儘。情緒不安定。寂しがり。嫉妬深い。敵は容赦なく攻撃シマス。彼氏依存症。取扱注意。
 
まれにパリピが「*住んでいるところ*地面の上↑↑✌(‘ω’✌ )三✌(‘ω’)✌三( ✌’ω’)✌」なんて書き込んでいましたが、全体的なトーンは暗いこと暗いこと。デコっても暗い。ビタミンカラーでも暗い。雨でも晴れでもユウウツ。それが当時のアタシタチの特権でした。
 

そして、こんなドドメ色の青春を煮詰めた作品が登場します。「ケータイ小説」です。
 
 
*1 前略プロフィール:いくつかの質問に答える形で自己紹介ページを作っていくサービス。ゲストブックやリンク集の設置などSNS的な要素も強かった。現在はサービス終了。

  *2 国内最大級規模を誇ったSNS。招待制でスタートし、同じ趣味の人が集うコミュニティに参加したり、足あと機能つきのプロフィールページ、日記の公開、友人登録を行う「マイミク」という機能などがある。

*3 ゲームをはじめ、著名人のブログ、小説やイラスト投稿が楽しめるSNS。2006年に「モバゲータウン」という名前でスタートし、ガラケーで無料ゲームが楽しめることから多くの若者が利用した。

『Deep Love』が紡ぐディープすぎるラブ

Deep Love。
 
この単語を聴くだけでアラサーは胸がつぶれます。10代女子はこんどアラサーの親戚にあったら「ねえ、『Deep Love』って知ってる?」って聞いてみてください。殺虫剤をかけられたGのようにのたうちまわる私たちが見られることでしょう。
 
『Deep Love』は、一般に初めて認知されたケータイ小説でした。その後も『天使がくれたもの』*4『恋空』*5『金魚倶楽部』*6『王様ゲーム』*7と多数の名作を生み出したケータイ小説も、すべては『Deep Love』から始まっています。
 
『Deep Love』では思い切り浜崎あゆみにインスパイアされた主人公「アユ」が、失明した少年の医療費を稼ぐべく売春でお金をためるが、本人はHIVで死んでしまう――。大まかに説明するとこんな物語です。
 
大きく省略しましたが物語にはレイプあり、薬物あり、妊娠ありと、さながら犯罪のフルーツパフェ。それが10代女子の「共感」を呼び書籍化したのだからザワつきました。さらにシリーズ累計出荷部数は250万部以上、劇場版も公開されるなど大ヒットとなったのです。ちなみに『君の膵臓を食べたい』は累計270万部。つまり、『Deep Love』は『キミスイ』と同じくらい売れたことになります。
 

*4 ケータイ小説家Chacoのデビュー作。続編を含め「天くれ」シリーズと呼ばれる。『Deep Love』に続くケータイ小説ヒット作と呼ばれ、その後のケータイ小説の盛り上がりのきっかけとなった作品。

*5 ケータイ小説家美嘉のデビュー作。2005年から携帯Webサイト魔法のiらんどに掲載され、ドラマ化のほか、新垣結衣主演で映画化もされた大作。

*6 椿ハナによるケータイ小説。『恋空』と同様、魔法のiらんどに掲載。2011年にテレビドラマ化された際は吉沢亮などが出演した。

*7 ぱっくんちょこと金沢伸明によるケータイ小説。モバゲータウンにおいて、総閲覧数4000万という、サービス上の最高総閲覧数を記録している。書籍化、漫画化、映画化がされており、2017年にはテレビアニメ化・放映された。

病むことが普通に見えた2000年代

といっても、当時の女子高生が当たり前のようにレイプされていたり、薬物や売春をしていたりしたわけではありません。そんなSEKAI NO OWARIから2018年までに今の治安へ日本が復帰したら逆にすごいわ。
 
ただ、普段から浜崎あゆみに触れ、「援助交際」「出会い喫茶」がニュースで取り上げられ、ちょっと上の世代がキレる17歳と殺人事件で有名になって……「病んでいるのが当たり前」に思える土壌がありましたよね、アラサーのみなさまよ。
 
いま振り返ると恥ずかしくてジタバタしたくなるお姉さまがたも多いでしょう。私だって「消毒用エタノール」という自作ウェブサイトでポエムを掲載していた過去を消したいものです。けれどそれは、堂々と病んだ恋をする権利があった、数少ない時期でもあったんじゃないでしょうか。

命がけで恋して、何が悪い

あのときの私たちは、命がけで恋をしていました。「あなたなしでは生きていけない」と高校の彼氏へデコメを送りました。好きな人の着メロだけ変えて「彼からだ!」と察していました。彼の子どもができたら、彼に何があっても育てると決意していました。
 
あのころの私たちは、好きすぎて病んでいました。病む権利を、持っていました。ただの甘酸っぱい初恋が、一世一代の大恋愛に見えました。手首を切って生きている証を確認しました。「死んでもいいよ」と聞こえる声に「生きてて”も”いいんだ」と涙しました。
 
命がけで恋して何が悪い。そんな強烈さを経験できたこと。それが2000年代からアラサーが受け取った遺産じゃないでしょうか。
 
と、あの頃のイイ話をしたあたりで、最後は我に返りましょうね。私が最近、女子中学生から聞いて一番ショックだった言葉をお届けします。
 
「あ、BUMP OF CHICKENだ! 私のパパがよく聴いてる!」
 


……婚活、がんばります。
 
text:トイアンナ

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